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エスメラルダの気持ち4

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 プリシラは五年間、召喚士養成学校に通い、見事召喚士となった。プリシラと契約した霊獣は、小さな毛玉だった。だが魔力量を感知する事ができるエスメラルダには、プリシラの契約霊獣が、すさまじい量の魔力を秘めている事が見てとれた。

 エスメラルダは一安心した。だがプリシラと契約した霊獣は、どうにも自信過剰でいいかげんな性格のようだった。もしプリシラが危機におちいった場合、助けるのをしくじる懸念があった。

 これはエスメラルダも気を引き締めて妹を守らねばならないと、改めて思った。

 エスメラルダは魔法学校を優秀な成績で卒業し、冒険者になり数々の依頼をこなした。危険な依頼には高額の報酬が受け取れた。エスメラルダは自分で自由になるお金を手に入れる事ができた。

 小さい頃、自分の自由になるお金さえあれば、泣いて行かないでとすがる妹を助ける事ができただろう。

 妹のプリシラは立派な大人の女性に成長した。もうエスメラルダが守ってあげなければいけない小さな少女ではない。

 お姉さま、私を一人にしないで?

 エスメラルダの心の奥底には、今でも小さなプリシラがいて、彼女を助けられなかった自分が不甲斐なくて仕方なかった。

 エスメラルダはハッと意識を、目の前の事に戻した。今は依頼の真っ最中だ。ぼんやりしている場合ではない。

 エスメラルダが我に返った途端、男の胴間声が響き渡った。

「死ね!バケモノ!」

 エスメラルダの首めがけて、剣を振るう大男があらわれた。エスメラルダはとっさに風攻撃魔法で、男をズタズタに引き裂いてやろうと考えたが、先ほどまで思い出していたプリシラの笑顔がちらついて、行動に移せなかった。

 エスメラルダは自身に風防御ドームを張り、振り下ろされる剣から身を守った。大男の剣は、エスメラルダの防御ドームに、傷一つつける事ができなかった。

 大男はぼう然と立ちつくしていた。どうやらこの大男は、エスメラルダの植物ツタ魔法の拘束を抜け出してしまったようだ。

 エスメラルダは大男の拘束に、鉄生成魔法で強度の強いワイヤーを作り、ぐるぐる巻きにした。こうすれば大男は拘束から逃げる事はできないだろう。

 大男はエスメラルダに、殺せとわめきたてた。エスメラルダはイライラしながら鋭く言った。

「静かにしなさい。お前を殺すも生かすも私次第なの」

 大男は騒ぐのをやめると、反抗的な目でエスメラルダをにらんだ。エスメラルダはある事に気づいた。この大男は、盗賊団のリーダーを任されている男だ。通りで他の盗賊よりも骨があるわけだ。

 エスメラルダはある事が気になって盗賊のリーダーに質問した。

「ねぇ、貴方はこれから心を入れ替えるの?」

 エスメラルダの出し抜けな質問に、盗賊のリーダーはいぶかる表情をした。
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