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タップとエスメラルダ

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 これはまずい事になった。プリシラは大きなため息をつきながら考えた。プリシラと霊獣のタップは契約した事により、心がつながった。

 プリシラには、タップがとても怒っている事がよくわかった。このままでは、あわれな山賊たちが殺されてしまう。プリシラは胸元のペンダントに声をかけた。

「お姉ちゃん、今大丈夫?」
「プリシラ?どうかしたの?」

 プリシラが通信魔法具のペンダントに言葉をかけると、すぐさま姉の返事が返ってきた。プリシラは手短かに説明して、ここに来てほしいと頼んだ。

 しばらくすると、プリシラの目の前に空間の出入り口が出現し、姉のエスメラルダが現れた。彼女を目の当たりにした山賊たちは色めき立った。

「おお、いい女が二人になったぜ!」
「この女も上玉だ!高く売れるぜ!」
「売る前にまずは味見をしてやろう」

 エスメラルダを目にした山賊は、口々に下劣な言葉をのたまった。姉はプリシラに美しい顔を向けながら言った。

「プリシラ、なぁに?このうす汚い者たちは」
「私を売ろうとしている山賊さんたちよ。ねぇ、お姉ちゃん。この山賊さんたちが、もう悪い事しないようにこらしめてくれない?」

 エスメラルダは優美な顔をくもらせて答えた。

「何を言っているの?プリシラ。この下劣な人間たちは、貴女を辱め売ろうと考えたのよ?それだけで万死にあたいするわ?チリも残さず消し去りましょう」

 プリシラはあんぐりと口を開けて固まった。どこかで聞いたセリフだ。プリシラが抱っこしているタップが関心したように言った。

『おう、わかってんじゃねぇか。悪魔姉ちゃん。コイツらをぶっ殺すのに俺も賛成だぜ』

 タップは小さな翼でパタパタと空を飛ぶと、エスメラルダのとなりに着地して、彼女を見上げながら言った。

『おう、悪魔姉ちゃん。この時だけは意見が合うな!コイツら一瞬でぶっ殺そうぜ?』
「あら、毛玉も同じ意見のようね?さぁ、チャッチャッと片づけてしまいましょう」

 姉のエスメラルダは霊獣語がわからないので、タップの言葉は、ピーピー鳴いているだけにしか聞こえないだろう。だがこの時ばかりは二人の意見は一致していた。

 プリシラが姉を呼んだのは、タップの暴走を止めてもらおうとしたのだ。これでは厄災が二つになってしまった。

 哀れな山賊たちは、黒髪の美女と小さなモルモットのただならない様子に違和感を感じはじめたようで、不安そうに立ちつくしている。

 彼らはこれから数秒後、最恐の魔女である姉と風魔法の霊獣により、チリも残さずこの世から消滅させられるだろう。

 プリシラは自身に風魔法をまとい、全力で駆け出した。


 
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