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プリシラ怒る

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 プリシラは、少年の胸ぐらを掴んで、今にもぶん殴りそうな大男に言った。

「ちょっと、貴方!小さな子供に何て事すんのよ!離しなさい!」

 大男はギロリとプリシラを見て、驚いた顔になり、やがてヤニ下がった気味の悪い顔になって言った。

「よぉ、べっぴんさん。このガキの代わりに治療費を払ってくれるのかい?」
「いいえ。私はお金を持っていないわ。だから意見をするのよ。小さな子供がぶつかってケガをするなんておかしいわ?ねぇ、そこの貴方本当はケガなんかしていないんじゃない?」

 プリシラは、子供をつまみあげている大男の後ろで、肩をおさえている大男に言った。肩をおさえた大男は、ギロリとプリシラをにらむと、大声で言った。

「このアマ!大人しくしていればいい気になりやがって!」

 大男は肩から手をはなすと、プリシラに向かって大股で近づいて来た。プリシラは手のひらで魔法を発動した。

 プリシラは霊獣のタップの力を借りなくても、一つだけ魔法が使える。風魔法だ。プリシラは手のひらにりんごほどの風のかたまりを作ると、近づいてくる大男の腹めがけて投げつけた。

 大男はプリシラの風魔法が当たって後ろに吹っ飛んだ。そのまま頭を打って気絶してしまった。

 それを見たもう一人の大男はにわかに青ざめた。

「このアマ!妙な術を使いやがって!」
「今のは大きな風魔法を作ったの。だけど、風魔法を小さくすれば、もっと精度があがるわ」

 プリシラは大男によく見えるように、人差し指を立てて、人差し指の先に小さな風魔法を発生させた。

 小さな風魔法は、プリシラの指先で激しく回転を繰り返していた。プリシラは足元に落ちていた大きめの石を拾うと、大男めがけて投げた。

 すかさず人差し指に作った風魔法を発射する。大男に当たるはずだった石は、プリシラの風魔法により、粉々に粉砕された。大男は顔を真っ青にさせ、口をパクパクさせていた。

「さっきの風魔法が貴方の腹に当たったらどうなるかしら?」

 大男は、チクショウ覚えてろと、格下の悪役が言うおなじみのセリフを吐き、倒れた大男を引きずってどこかに消えて行った。

 悪漢たちを追い払ったプリシラに、野次馬たちは賛辞の拍手を贈った。プリシラはその場に棒立ちになっている少年に声をかけた。

「ぼうや、大丈夫?」
「俺はぼうやじゃねぇ。なぁ、姉ちゃん!さっきの風魔法だろ?」
「ええ、そうよ」
「なぁ、俺に風魔法教えてくれよ!」
「ぼうやに風魔法?」
「ぼうやじゃねぇって言ってんだろ!俺はトビーって名前があんだ!」
「トビーはエレメント使いなの?」
「そうだ!俺、風魔法をもっと使えるようになりたいんだ!」

 エレメント使いとは、火、水、風、土のどれか一つだけのエレメントと契約している者の事をいう。プリシラも風のエレメント使いだ。魔法使いとは火、水、風、土すべてのエレメントと契約した者の事をいう。

 プリシラは考えた。トビーは小さな子供だ。そんな子供が風魔法を上達させたいという。プリシラはもう一度トビーに質問した。

「トビーは風魔法をどんな目的に使いたいの?」
「決まってるだろ?さっきみたいな悪い奴らを倒すためだ!」
「そんな事を考えているなら、教えるわけにはいかないわ」
「何でだよ!ケチ!」
「ケチじゃないの。トビーは、自分の魔法を誰かを傷つけるために使いたいと言ったわ。魔法が使えるというのはある意味、人より優れているという事なの。それなら魔法は人のために使わなければいけないの」
「・・・。姉ちゃんだって、大男を倒すために魔法を使ったじゃないか」
「さっきのはね、私がトビーを助けたかったから使ったの」

 プリシラは腰をかがめて、トビーの目線に合わせて言った。トビーはグッとくちびるを噛んで、下を向いていた。
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