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召喚士

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 周囲は緊張に包まれていた。プリシラは気持ちを落ち着けるために深呼吸をしようとするが、うまくいかなかった。

「プリシラ、緊張してはダメよ!ほら、深呼吸して?」

 親友のチコがプリシラの背中をさすりながら言った。プリシラがチコの顔をのぞき込むと、チコの顔は真っ青だった。だがチコにその事を告げれば、チコはもっと緊張してしまうだろう。

 プリシラはチコの顔色の事には触れないで、ありがとうと言った。

「チコ、プリシラ、だらしないわね。こういう時は、もっと気持ちをおだやかにしなければいけないのよ?」

 もう一人の親友のサラが言った。プリシラとチコがサラの顔をのぞき込むと、サラはみけんに深いしわをよせて、あぶら汗をかいていた。

 幼い頃から一緒にいるプリシラとチコは悟った。サラはものすごく緊張していると。

 プリシラの周りにいる他の面々も、皆同じようなものだ。プリシラたちは皆一様に激しく緊張しているのだ。

 プリシラは召喚士養成学校の最高学年だ。今年で十八歳になる。プリシラは召喚士養成学校の卒業試験を合格し、この日精霊か霊獣との契約をするため、召喚魔法をとりおこなうのだ。

 召喚魔法を行っても、必ずしも精霊か霊獣と契約できるわけではない。プリシラは召喚士になるために、五年間学校で勉学にはげんできた。プリシラはどうしても召喚士にならなければいけないのだ。

 プリシラの担任教師が一人の生徒の名を呼ぶ。クラスメイトはガタガタ震えながら校庭の真ん中に立つと、魔法陣を描き始めた。

 皆かたずを飲んで見守っていた。生徒が魔法陣の中に入り、召喚魔法を詠唱する。突然魔法陣が輝き出し、魔法陣の中に美しい女性が現れた。精霊だ。

 美しい精霊を呼び出し、契約した生徒は、皆に賞賛された。

 次々に生徒が呼ばれる。精霊や霊獣と、契約できる者もいれば、できない者もいる。

 ついにチコの番になった。チコは右足と右手を一緒に出しながら、校庭の真ん中に向かって行った。プリシラとサラはチコの背中にがんばれと声をかけた。

 チコの魔法陣が輝き出す。しばらくすると、チコは手のひらに乗るくらいの小さな可愛い女の子を肩に乗せて帰って来た。土の精霊だ。

「チコ!おめでとう!」
「やったね!チコ!」

 プリシラとサラは口々にお祝いを言った。顔が青ざめていたチコの頬はピンク色になっていた。

 次はサラの番だ。プリシラとチコはサラを応援しながら見送った。サラの描いた魔法陣が輝き出す。

 サラは茶色い毛並みのミニチュアダックスを連れて帰って来た。だがただの犬ではない、犬の頭にツノが生えている。霊獣だ。プリシラとチコはサラを祝福した。

 ついにプリシラの番が来た。チコとサラは、プリシラに笑いかけて言った。

「大丈夫だよ、プリシラ」
「ええ、プリシラなら絶対に契約できるわ」

 プリシラはうなずいて校庭の真ん中に立った。魔法陣の図形は頭に叩き込んでいる。プリシラは魔法陣を描き終えると、チラリと担任教師の顔を見た。担任が黙ってうなずく。魔法陣が正確に描けたのだ。

 プリシラは魔法陣の中に入り、呪文を詠唱した。

 森羅万象の清きものよ、我れの求めに応じて聖なる姿をあらわしたまえ。

 呪文を言い終えた途端、プリシラの魔法陣が輝き出した。あまりのまぶしさに、プリシラは強く目をつむった。

『俺を呼んだのはお前か?』

 プリシラがゆっくりと目を開くと、そこには小さくてモフモフのモルモットがいた。だがただのモルモットではない、背中に小さな翼が生えている。霊獣だ。プリシラは思わず叫んだ。

「キャァ!可愛い!」

 モフモフの霊獣はまんざらでまなさそうに答えた。

『ふふん、そうだろ。俺はモフモフで可愛いんだぞ』

 プリシラはそこでハッとした。今は契約の真っ最中だ。これから召喚に答えてくれた霊獣の対価を聞かなければいけない。霊獣の望む対価をプリシラが提示する事ができなければ、契約は成立しないのだ。

 プリシラはゴクリとツバを飲み込んでから言った。

「尊い霊獣よ、貴方の対価は何か?」
『対価?うーん、そうだな。じゃあ俺のモフモフの毛並みを毎日撫でる事!できるか?』

 モフモフの可愛い霊獣を毎日撫でる事ができるなんて、対価ではなくご褒美だ。プリシラは一も二もなくうなずいた。モルモットによく似た霊獣は満足そうにうなずいて言った。

『よし、俺の名前はタップ。お前の名前は?』
「はい、プリシラです。タップ」
『プリシラ。真の名において契約する。俺が、プリシラが死ぬまで守ってやる』

 霊獣のタップは、プリシラが死ぬまで側にいて守ってくれると言ったのだ。プリシラは胸が熱くなって、目から涙がこぼれた。

『どうした?プリシラ。どこか痛いのか?』

 タップが心配そうに首をかしげて言った。プリシラは人差し指で涙をぬぐってから、笑顔になって答えた。

「ううん。違うの、タップ。タップがずっと一緒にいてくれると思ったら嬉しくて」
『ふふん、そうだろう。俺は何たって偉大な風魔法の霊獣だからな!プリシラは大船に乗った気でいろよ!』
「ええ。ありがとう、タップ。これからよろしくね」

 プリシラと霊獣タップの契約が完了したのだ。プリシラはタップのモフモフの身体を抱き上げた。タップはフワフワで柔らかかった。


 

 
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