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エグモントの驚き

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 エグモントは定期的に辰治を屋敷に呼び寄せて、勉強の進み具合を確認した。勉強嫌いの辰治が学校に行くのが楽しいと言うので、エグモントはホッとした。だがよくよく話しを聞いてみると、同級生たちとの会話が楽しいのだと言う。ここでエグモントが注意すると、辰治がへそを曲げかねないので、黙っておく事にする。

 エグモントは音楽だけではなく美術品もこよなく愛していた。そのため日本で暮らす金を稼ぐのに、城にある美術品を売る事にした。その売買を菊次郎に任せていたのだ。

 菊次郎は美術品の目利きの才能もあり、エグモントが数千年かけて集めた美術品や宝飾品を売ってくれていた。それだけではなく、日本の美術品や磁器などを買い付け、販売もしてくれていた。

 エグモントが日本でも何不自由なく暮らせるのは菊次郎のおかげでもあった。

 近ごろでは日本国内でのオークションに出向いて美術品を買い付けてもらっていた。エグモントはパソコンから出品されている美術品を確認し、菊次郎が代理で競り落としたりもしていた。

 これからは菊次郎の代わりに、辰治にやってもらわなければいけない。だが辰治は漢字が読めなければ、計算も苦手なのだ。何とかエグモントの代理人になってほしいと考えているのだ。

 エグモントは辰治の教養を高めるためにレコードをかけた。ホルストの惑星。指揮はカラヤンだ。

 辰治がいつものように嫌な顔をするかと思ったが、今日はうってかわってニヤリと笑みを浮かべて言った。

「ご主人さま。今日はどんなに退屈な音楽を聴いても寝たりしませんよ」

 辰治はおもむろにスケッチブックを取り出すと、何かを描き始めた。眠らないならいいかとエグモントは辰治のする事を黙って見ていた。

 宣言通り、辰治はレコードの曲が終わるまで起きていた。エグモントは辰治の描いたものが気になってスケッチブックを取り上げて見た。

 エグモントは驚きのあまり口をポカンとあけてしまった。辰治はエグモントの絵を描いていたのだ。絵の中のエグモントは、一人がけの皮のソファにゆったりと腰かけ、音楽に耳を傾けていた。心なしか表情が柔らかく、口元には笑みが浮かんでいた。

 エグモントは数千年前に肖像画家に自身の肖像画を描かせた事があるので、自分の美貌を充分熟知していた。辰治の描いたエグモントのデッサンは、まさに数千年ぶりに見る自身の姿だった。
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