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響の夢

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 帰りの新幹線の中で、ジュリアは飽きる事なく似顔絵描きに描いてもらった自分たちの色紙を眺めていた。ジュリアは嬉しそうに響に言った。

「ねぇ響。私ってこんなに目が大きいの?」
「ああ。これは似顔絵で誇張して描いてあるけどジュリアはとても目が大きくて綺麗だよ」
「響は鼻がとんがってるわね?実際は違うのに」
「だから誇張なんだってば。そんなにその絵が気に入ったの?」
「ええ。だって私たちの結婚式の絵なのよ?」
「・・・。そうだね。いい思い出になるね。そうだ、ジュリア。また今度旅に行こうよ。そしてまた似顔絵描きを探して描いてもらおう。そうしたら、俺たちの思い出の絵が沢山増える」

 響の提案に、ジュリアは嬉しそうにうなずいた。そこで響は名案を思いついた。自分がジュリアの絵を描けばいいのだと。ジュリアは自分で自分の姿を見る事ができない。ジュリアは自分がどんなに美しい女性であるか知らないのだ。

 響が写実的なジュリアの絵を描いて、彼女がいかに美しいかを教えてあげればいいのだ。そうと決まればぜんは急げだ。響は駅弁を包んでいた紙包の裏に、ボールペンでジュリアの顔を描き始めた。

 ジュリアは響が一体何を初めたのか興味津々で、覗き込もうとしてきた。それを響が止めて、彼女に動かないように指示した。ジュリアはため息をついてから大人しく動かないでいてくれた。

 絵描きの男性がとても簡単そうに描いているのを見て、響にもできるような気がしたのだ。響はジュリアの美しい瞳、ツンと形のいい鼻、バラ色の赤いくちびるをつぶさに確認してボールペンをはしらせた。

 苦心の末に絵が完成し、得意げにジュリアに見せると、彼女は腹を抱えて笑っていた。そんなに変な絵だろうか。

 ジュリアは目に涙まで浮かべながら笑ってから言った。

「響が私の絵を描けるようになるにはまだまだ修行が足りないわね?もっと練習してよね?」
「ああ、楽しみにしててくれよな?」

 ジュリアは笑顔でうなずいてから、響の描いたブサイクな絵を、色紙を入れているビニールの袋の裏にしまった。

 案外ジュリアは響の絵を喜んでくれたのかもしれない。響は絵を勉強するという夢を持った。響はどうやら絵の才能が無いらしい、だが沢山の時間を持っている。十年、二十年と絵の練習をすれば、必ずやジュリアの実物に匹敵するような絵が描ける日がくるはずだ。
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