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二人の写真
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響とジュリアは旅館に一泊した。響の仕事の関係で、今日東京に帰らなければならなかった。
響はジュリアに、どこか行きたい所はないかと聞くと、彼女はブラブラと歩いて駅に向かいたいと言った。響とジュリアは当てどなく歩いた。
ジュリアは幸亀酒造で見た自画像の事を話題にした。
「百年ぶりに見たけど、私あんなに目が細いかしら?」
「いいや、ジュリアは目がとても大きい。あの肖像画の絵師は洋画を学んではいたけど、やっぱり日本の画家なんだよ」
ジュリアは、そおかぁとあいまいに答えた。ジュリアは吸血鬼なので自分の姿を鏡や写真に写す事ができない。だから肖像画を依頼する時、隆成とジュリアの二人で描いてもらいたかったのだ。だが隆成は仕事の忙しさから、それは叶わずジュリアだけが肖像画を描いてもらう事になった。
ジュリアは響を見上げて言った。
「ねぇ響。私って可愛い?」
「ああ。美人で綺麗で、世界一可愛い」
「あはは。言いすぎだよ」
ジュリアはまんざらでもなさそうに笑った。響はジュリアにある事を提案した。
「ねぇジュリア。俺とジュリアの肖像画を描いてもらおうか。現代の肖像画家ならもっと写実的に描いてくれるよ」
「ううん、よしとく。だって今の肖像画家は写真を撮ってから絵を仕上げるもの」
「えっ、そうなの?」
ジュリアはそうなの、と言って笑った。彼女はすでに調べていたようだ。その事がジュリアが響と同じ一瞬を切り取り、永遠に残したいと願っている事を物語っていた。
途中大きな公園を見つけたので、散策する事にした。そこは噴水もあり、広いしばふもあって、ピクニックにも最適だった。響はあるものに気がついて、ジュリアの手を取って走った。
「ジュリア!こっち」
ジュリアは響の突然の行動に驚いたようだが、素直について来てくれた。
響はジュリアを連れて似顔絵描きの男性の前に立った。六十代くらいの似顔絵描きの男性は、小さなイスに座りぼんやりと虚空を眺めていた。男性の周りには、自分が描く似顔絵のサンプルが飾られていた。有名人の特徴を誇張した似顔絵。明らかに悪意のある似顔絵もあった。
そのほかには、一般のカップルの似顔絵もあった。一名で描いてもらう場合は千五百円、二名で描いてもらう場合は三千円と書いてあった。
響はジュリアの手を取って、絵描きの男性の前にある小さなイスに座って言った。
「あの、俺たちを描いてもらえませんか?」
絵描きの男性は暇していた所を突然客がやって来たので、顔をほころばせてうなずいた。
絵描きは真っ白な色紙を手に取ると、えんぴつで響とジュリアの顔のあたりをつけ出した。手の動きは驚くほど早いのに、絵描きはのんびりと言った。
「お兄さんたち学生さん?神戸には旅行か何か?」
「はい。俺たち今新婚旅行中なんです」
響の答えに絵描きは驚いて言った。
「ええ?!新婚旅行ならこんなトコじゃなくて、もっと景気のいいところに行けばいいじゃない。私が住んでいるのにこんなトコと言うのは何だけどさぁ」
絵描きの男性は響とジュリアの服装を見てから何かを察したようだ。響はジーンズにパーカー、ジュリアは年季の入った青いワンピースに白いカーディガンだった。きっとお金のない若い夫婦だと思ったのだろう。
ジュリアは絵描きに笑顔で言った。
「私たち昔、神戸に住んでいたんです。だから旅行もここがいいねって」
「そうかい。ならこっちに住めばいいじゃない」
絵描きは響たちが神戸の住人だった事を知ると、急に親近感がわいたようで、嬉しそうに言った。神戸に住む。それもいいかもしれないと響は思った。だがずっと定住してはいられない。十年くらい経ったらまた住む場所を転々としなければいけないからだ。
響はジュリアと顔を見合わせてから、それもいいね。と話した。絵描きの描くスピードはさらに速くなり、筆ペンでりんかくを描くと、すぐさま彩色に入った。
絵描きは絵を完成させると、フゥと息を吐いてから、色紙を裏返しにして完成した絵を響たちに見せてくれた。響とジュリアは同時にアッと声をあげた。
絵描きの粋な計らいで、響とジュリアはタキシードとドレスを着ていた。似顔絵なので、顔は誇張されて大きかったが、胸元部分で二人の結婚式の絵だとわかった。ジュリアは頭にティアラを乗せ、ベールをかぶっていた。
絵描きは色紙が汚れないように、透明なビニールの袋に入れてジュリアに手渡してくれた。ジュリアはポツリと呟くように言った。
「私と響の結婚写真だ」
ジュリアはそういうとポロポロと涙を流した。ジュリアが突然泣き出した事に絵描きは驚いたようだが、響は笑って答えた。
「ありがとうございます。俺たちの記念になりました」
響は財布から五千円札を取り出して、絵描きに渡した。絵描きがお釣りを返そうとすると、響はそれを手で制して言った。
「妻がとても喜んでいます。お釣りは俺たちの感謝の気持ちです」
響はジュリアに、どこか行きたい所はないかと聞くと、彼女はブラブラと歩いて駅に向かいたいと言った。響とジュリアは当てどなく歩いた。
ジュリアは幸亀酒造で見た自画像の事を話題にした。
「百年ぶりに見たけど、私あんなに目が細いかしら?」
「いいや、ジュリアは目がとても大きい。あの肖像画の絵師は洋画を学んではいたけど、やっぱり日本の画家なんだよ」
ジュリアは、そおかぁとあいまいに答えた。ジュリアは吸血鬼なので自分の姿を鏡や写真に写す事ができない。だから肖像画を依頼する時、隆成とジュリアの二人で描いてもらいたかったのだ。だが隆成は仕事の忙しさから、それは叶わずジュリアだけが肖像画を描いてもらう事になった。
ジュリアは響を見上げて言った。
「ねぇ響。私って可愛い?」
「ああ。美人で綺麗で、世界一可愛い」
「あはは。言いすぎだよ」
ジュリアはまんざらでもなさそうに笑った。響はジュリアにある事を提案した。
「ねぇジュリア。俺とジュリアの肖像画を描いてもらおうか。現代の肖像画家ならもっと写実的に描いてくれるよ」
「ううん、よしとく。だって今の肖像画家は写真を撮ってから絵を仕上げるもの」
「えっ、そうなの?」
ジュリアはそうなの、と言って笑った。彼女はすでに調べていたようだ。その事がジュリアが響と同じ一瞬を切り取り、永遠に残したいと願っている事を物語っていた。
途中大きな公園を見つけたので、散策する事にした。そこは噴水もあり、広いしばふもあって、ピクニックにも最適だった。響はあるものに気がついて、ジュリアの手を取って走った。
「ジュリア!こっち」
ジュリアは響の突然の行動に驚いたようだが、素直について来てくれた。
響はジュリアを連れて似顔絵描きの男性の前に立った。六十代くらいの似顔絵描きの男性は、小さなイスに座りぼんやりと虚空を眺めていた。男性の周りには、自分が描く似顔絵のサンプルが飾られていた。有名人の特徴を誇張した似顔絵。明らかに悪意のある似顔絵もあった。
そのほかには、一般のカップルの似顔絵もあった。一名で描いてもらう場合は千五百円、二名で描いてもらう場合は三千円と書いてあった。
響はジュリアの手を取って、絵描きの男性の前にある小さなイスに座って言った。
「あの、俺たちを描いてもらえませんか?」
絵描きの男性は暇していた所を突然客がやって来たので、顔をほころばせてうなずいた。
絵描きは真っ白な色紙を手に取ると、えんぴつで響とジュリアの顔のあたりをつけ出した。手の動きは驚くほど早いのに、絵描きはのんびりと言った。
「お兄さんたち学生さん?神戸には旅行か何か?」
「はい。俺たち今新婚旅行中なんです」
響の答えに絵描きは驚いて言った。
「ええ?!新婚旅行ならこんなトコじゃなくて、もっと景気のいいところに行けばいいじゃない。私が住んでいるのにこんなトコと言うのは何だけどさぁ」
絵描きの男性は響とジュリアの服装を見てから何かを察したようだ。響はジーンズにパーカー、ジュリアは年季の入った青いワンピースに白いカーディガンだった。きっとお金のない若い夫婦だと思ったのだろう。
ジュリアは絵描きに笑顔で言った。
「私たち昔、神戸に住んでいたんです。だから旅行もここがいいねって」
「そうかい。ならこっちに住めばいいじゃない」
絵描きは響たちが神戸の住人だった事を知ると、急に親近感がわいたようで、嬉しそうに言った。神戸に住む。それもいいかもしれないと響は思った。だがずっと定住してはいられない。十年くらい経ったらまた住む場所を転々としなければいけないからだ。
響はジュリアと顔を見合わせてから、それもいいね。と話した。絵描きの描くスピードはさらに速くなり、筆ペンでりんかくを描くと、すぐさま彩色に入った。
絵描きは絵を完成させると、フゥと息を吐いてから、色紙を裏返しにして完成した絵を響たちに見せてくれた。響とジュリアは同時にアッと声をあげた。
絵描きの粋な計らいで、響とジュリアはタキシードとドレスを着ていた。似顔絵なので、顔は誇張されて大きかったが、胸元部分で二人の結婚式の絵だとわかった。ジュリアは頭にティアラを乗せ、ベールをかぶっていた。
絵描きは色紙が汚れないように、透明なビニールの袋に入れてジュリアに手渡してくれた。ジュリアはポツリと呟くように言った。
「私と響の結婚写真だ」
ジュリアはそういうとポロポロと涙を流した。ジュリアが突然泣き出した事に絵描きは驚いたようだが、響は笑って答えた。
「ありがとうございます。俺たちの記念になりました」
響は財布から五千円札を取り出して、絵描きに渡した。絵描きがお釣りを返そうとすると、響はそれを手で制して言った。
「妻がとても喜んでいます。お釣りは俺たちの感謝の気持ちです」
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