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ジュリアの旅

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 ジュリアは千年以上住み慣れた古城を出て、あらゆる土地を旅した。だがあまり長くは定住しなかった。若い娘が町をウロウロしているのは目立つからだ。

 ジュリアは旅を続け、港に到着した。ジュリアは船に乗る事を決意した。この土地ではない別な土地に行ってみたかった。

 船旅はとても長かった。船員たちは次第に、この船には吸血鬼が乗っているのではないかと恐れ騒ぎはじめた。ジュリアが密かに船員の血を吸っているのを他の船員に見られてしまったのだ。
 
 そこでジュリアは、陸に到着するまでの数ヶ月を、血を吸わないで耐えるしかなかった。

 陸地に降り立って、ジュリアは驚いた。それまで自分が暮らしていた風土も人種もまるで違ったからだ。この国の人々は、背が低くて顔がのっぺりしていて目が細かった。

 ジュリアは興味深げに新たな土地を散策した。珍しい事だらけでジュリアは失念していた。自分が限界を超えて空腹だという事を。ジュリアはついに道端で倒れてしまった。

 誰かがジュリアをゆり起こそうとする。ジュリアは本能的にその相手の首すじにかぶりついた。甘いほうじゅんな血液がのどをつたう。ジュリアは動けるくらいの量を飲み干してから、相手の記憶を消そうとした。

 だがその人物は記憶を失わなかった。ジュリアを気にかけて起こそうとした男は、この土地の者にしては、ジュリアの住んでいた土地の者のように彫りの深い顔をしていた。切長の二重まぶたに、筋の通った鼻。男は不思議そうにジュリアを見つめてから、微笑んで立ち上がった。彼は背も高かった。

 男はジュリアに手まねきしてついて来いとジェスチャーした。ジュリアは記憶の消えない男をそのままにしておけないと思い、男について行った。

 男はジュリアを自分の家に連れて来た。男の家には沢山の人々が働いていた。人々は皆男にあいさつをした。どうやらこの男は偉い人間のようだ。

 男は自分の部屋にジュリアを通すと、平べったいクッションを出してジュリアに座るようにすすめた。ジュリアがその通りにすると、男は微笑んで自分を指差して言った。

「た・か・な・り」

 どうやらこの男の名前のようだ。ジュリアは一生懸命復唱した。

「タキャナリ」

 男は微笑んでジュリアを見つめた。ジュリアの名前が知りたいのだろう。ジュリアは自分の名を名乗った。男は片言でジュリアの名を呼んだ。

「じぃりあ」

 隆成は上手にジュリアの名前を呼べなかったが、ジュリアは隆成が自分の名前を呼んでくれた事がとても嬉しかった。


 
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