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詰問
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響は帰りの電車の中、様々な思考がめぐっていた。響は自分の感情に一つの答えを出した。自分は傷ついているのだ。響とジュリアの夫隆成が瓜二つだった事を、彼女は何故か隠していた。
その事が裏切られたように感じられた。響を吸血鬼にした直後に話していてくれたら、気持ちは変わっていたかもしれない。だが響はジュリアという美しい吸血鬼と共に暮らし、彼女を心から愛してしまったのだ。
愛するという感情はやっかいだ。相手を愛したら、相手からの愛も欲しくなるのだ。だがジュリアは響本人は必要なかったのだ。ただ夫と同じ顔をした響を側に置いておきたかっただけなのだ。
響は幸亀酒造の日本酒のビンを見て考えた。ジュリアには幸亀酒造に行った事は黙っていたかった。
響は自宅に帰る前に、繁華街をウロウロしている辰治を見つけて日本酒を押し付けた。辰治は喜んで受け取ったが、響の顔を見て驚いたように言った。
「響、お前大丈夫か?ひどい顔色だぞ?」
「・・・。ああ、大丈夫だ」
響はそれだけ言うと自宅に向かった。ジュリアに何て言おう。これからも以前のようにジュリアと暮らしていけるのだろうか。
響が自宅に帰ると、ジュリアは嬉しそうに出迎えてくれた。響はあいまいにただいまと返事をした。ジュリアはそれ以上何かを言ってはこなかった。
きっと響が父親の死を悲しんでいると思っているのだろう。響はジュリアに食事の有無を聞いた。彼女はカップラーメンを食べたと答えた。響も湯をわかしてカップラーメンを食べた。
ジュリアは響の食事が終わるまで側にいてくれた。真実を知る以前なら、こんなささいな事でも喜びを感じられた。だが今となっては、ジュリアが好むのは響の顔であって響自身ではないのだとわかっているので、彼女の優しい気遣いが空々しく感じられた。
響の食事が終わると、ジュリアは気遣うように言った。
「響、疲れたでしょう?もう寝たらいいわ?」
「・・・。ジュリアが俺に優しくしてくれるのは、俺が隆成に似ているから?」
響の口からポロリと言葉が出てしまった。言ってはいけないと思っていたのに、ついつい口がすべってしまった。ジュリアは驚いたような顔をしていた。
その彼女の表情が、すべてをものがたっていた。響はカァッと頭に血がのぼった。言ってはいけないと思うのに、口からひどい言葉が出ていた。
「親父の葬儀の後、神戸の幸亀酒造に行ったよ。店は五代目が継いでいて、繁盛しているようだった。店主の奥さんが写真を見せてくれたんだ。幸亀酒造の二代目が俺にそっくりだって。本当にそっくりだった」
「・・・、響?」
「ジュリアが俺を必要だと言ってくれた時、俺は心から嬉しかったんだ。だけど、ジュリアが必要だったのは、俺の顔だけだったんだね?亡くなった夫に似ている男を側に置いて起きたかっただけなんだね?別に俺じゃなくても良かったんだ」
「響、何でそんな事言うの?私は、響が大事なのよ?」
「ハッ、どうだか。俺の顔が修復できないくらいズタズタに傷ついたら、ジュリアは俺をいらなくなるんじゃないか?そして別な、隆成に似た男を探して眷属にするんじゃないのか?」
ジュリアは立ち上がって叫んだ。
「響、何でそんなひどい事言うの?」
響は怒りに任せてジュリアを見上げた。そしてハッとした。彼女は泣いていた。美しい紫の瞳から、ポロポロと涙を流していた。響はしまったと思って謝ろうとした。だがジュリアは目にも止まらない速さで部屋を出ると、どこかに行ってしまった。
その事が裏切られたように感じられた。響を吸血鬼にした直後に話していてくれたら、気持ちは変わっていたかもしれない。だが響はジュリアという美しい吸血鬼と共に暮らし、彼女を心から愛してしまったのだ。
愛するという感情はやっかいだ。相手を愛したら、相手からの愛も欲しくなるのだ。だがジュリアは響本人は必要なかったのだ。ただ夫と同じ顔をした響を側に置いておきたかっただけなのだ。
響は幸亀酒造の日本酒のビンを見て考えた。ジュリアには幸亀酒造に行った事は黙っていたかった。
響は自宅に帰る前に、繁華街をウロウロしている辰治を見つけて日本酒を押し付けた。辰治は喜んで受け取ったが、響の顔を見て驚いたように言った。
「響、お前大丈夫か?ひどい顔色だぞ?」
「・・・。ああ、大丈夫だ」
響はそれだけ言うと自宅に向かった。ジュリアに何て言おう。これからも以前のようにジュリアと暮らしていけるのだろうか。
響が自宅に帰ると、ジュリアは嬉しそうに出迎えてくれた。響はあいまいにただいまと返事をした。ジュリアはそれ以上何かを言ってはこなかった。
きっと響が父親の死を悲しんでいると思っているのだろう。響はジュリアに食事の有無を聞いた。彼女はカップラーメンを食べたと答えた。響も湯をわかしてカップラーメンを食べた。
ジュリアは響の食事が終わるまで側にいてくれた。真実を知る以前なら、こんなささいな事でも喜びを感じられた。だが今となっては、ジュリアが好むのは響の顔であって響自身ではないのだとわかっているので、彼女の優しい気遣いが空々しく感じられた。
響の食事が終わると、ジュリアは気遣うように言った。
「響、疲れたでしょう?もう寝たらいいわ?」
「・・・。ジュリアが俺に優しくしてくれるのは、俺が隆成に似ているから?」
響の口からポロリと言葉が出てしまった。言ってはいけないと思っていたのに、ついつい口がすべってしまった。ジュリアは驚いたような顔をしていた。
その彼女の表情が、すべてをものがたっていた。響はカァッと頭に血がのぼった。言ってはいけないと思うのに、口からひどい言葉が出ていた。
「親父の葬儀の後、神戸の幸亀酒造に行ったよ。店は五代目が継いでいて、繁盛しているようだった。店主の奥さんが写真を見せてくれたんだ。幸亀酒造の二代目が俺にそっくりだって。本当にそっくりだった」
「・・・、響?」
「ジュリアが俺を必要だと言ってくれた時、俺は心から嬉しかったんだ。だけど、ジュリアが必要だったのは、俺の顔だけだったんだね?亡くなった夫に似ている男を側に置いて起きたかっただけなんだね?別に俺じゃなくても良かったんだ」
「響、何でそんな事言うの?私は、響が大事なのよ?」
「ハッ、どうだか。俺の顔が修復できないくらいズタズタに傷ついたら、ジュリアは俺をいらなくなるんじゃないか?そして別な、隆成に似た男を探して眷属にするんじゃないのか?」
ジュリアは立ち上がって叫んだ。
「響、何でそんなひどい事言うの?」
響は怒りに任せてジュリアを見上げた。そしてハッとした。彼女は泣いていた。美しい紫の瞳から、ポロポロと涙を流していた。響はしまったと思って謝ろうとした。だがジュリアは目にも止まらない速さで部屋を出ると、どこかに行ってしまった。
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