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響のわだかまり
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ジュリアは事あるごとに響に幸亀酒造の酒を頼んで飲むように勧めた。響は幸亀の日本酒が気に入ったので、それについては依存はないが、日本酒を飲むたびに、ジュリアは響に感想を聞くのだ。
それがどうやら日本酒の味ではない事にはだいぶ前から気づいていた。ジュリアは響に何をたずねたいのだろうか。
その秘密のカギが幸亀酒造にあるように思えてならなかった。だが幸亀酒造は神戸にある。ジュリアに黙って、すぐに行って帰って来るわけにはいかない。
そんな時、ある機会がおとずれた。響の母親から連絡があったのだ。響はアル中の父親から保護され施設で育ったが、母親の連絡先だけは知っていた。
母親は響の父親と離婚が成立して、新しい家庭を築いたのだ。母親はそこに響を呼び寄せる事はしなかった。
母親は電話で事務的に言った。響の父親が亡くなった、と。葬儀に参加するのなら斎場の住所を教えるという事だった。
響は行くかどうかはわからないが、一応教えてくれと頼んだ。父親の葬儀の場所は何と大阪だった。
どうやら父親も響を捨てた後、別な女性と世帯を持ったようだ。大阪なら、葬儀の後に神戸の幸亀酒造に寄れるではないか。響はこれは運命だと思った。
ためらいがちな母親の声は続く。響を捨てたという自覚があるからだろう。母親は響の近況を聞いた。
「どう?元気にしているの?今何してるの?」
「ああ、何とかやってるよ。仕事は土木事務所で深夜の工事現場の仕事をしている」
母親は響の境遇を熟知しているだろう。親に捨てられ、教育も満足に受けられず、体力仕事しかできない事を。母親はそう、と言ったきり黙ってしまった。響は急いでいるからと言って電話を切った。
ジュリアには父親の葬儀に行く事を告げた。心配そうなジュリアは、自分もついて行こうかといったが、響は断った。ジュリアは察してくれてそれ以上何も言わなかった。
響はジュリアと離れ、大阪に向かった。吸血鬼になって初めてジュリアと離れる事になった。
大阪の斎場には夕方に到着した。響は最初から通夜だけ参加するつもりだった。芳名帳の記帳は、母親の旧姓を書いた。潮山姓を書いたら、父親の血縁という事が知れてしまうかもしれないからだ。
焼香が響の番になり、響は約二十年ぶりに父親と対面した。棺の中には痩せこけた老人がいた。響は何の感慨も湧かなかった。幼い響は、この男が恐ろしくていつも震えていた。だがもう男は二度と起き上がる事は無いのだ。
それがどうやら日本酒の味ではない事にはだいぶ前から気づいていた。ジュリアは響に何をたずねたいのだろうか。
その秘密のカギが幸亀酒造にあるように思えてならなかった。だが幸亀酒造は神戸にある。ジュリアに黙って、すぐに行って帰って来るわけにはいかない。
そんな時、ある機会がおとずれた。響の母親から連絡があったのだ。響はアル中の父親から保護され施設で育ったが、母親の連絡先だけは知っていた。
母親は響の父親と離婚が成立して、新しい家庭を築いたのだ。母親はそこに響を呼び寄せる事はしなかった。
母親は電話で事務的に言った。響の父親が亡くなった、と。葬儀に参加するのなら斎場の住所を教えるという事だった。
響は行くかどうかはわからないが、一応教えてくれと頼んだ。父親の葬儀の場所は何と大阪だった。
どうやら父親も響を捨てた後、別な女性と世帯を持ったようだ。大阪なら、葬儀の後に神戸の幸亀酒造に寄れるではないか。響はこれは運命だと思った。
ためらいがちな母親の声は続く。響を捨てたという自覚があるからだろう。母親は響の近況を聞いた。
「どう?元気にしているの?今何してるの?」
「ああ、何とかやってるよ。仕事は土木事務所で深夜の工事現場の仕事をしている」
母親は響の境遇を熟知しているだろう。親に捨てられ、教育も満足に受けられず、体力仕事しかできない事を。母親はそう、と言ったきり黙ってしまった。響は急いでいるからと言って電話を切った。
ジュリアには父親の葬儀に行く事を告げた。心配そうなジュリアは、自分もついて行こうかといったが、響は断った。ジュリアは察してくれてそれ以上何も言わなかった。
響はジュリアと離れ、大阪に向かった。吸血鬼になって初めてジュリアと離れる事になった。
大阪の斎場には夕方に到着した。響は最初から通夜だけ参加するつもりだった。芳名帳の記帳は、母親の旧姓を書いた。潮山姓を書いたら、父親の血縁という事が知れてしまうかもしれないからだ。
焼香が響の番になり、響は約二十年ぶりに父親と対面した。棺の中には痩せこけた老人がいた。響は何の感慨も湧かなかった。幼い響は、この男が恐ろしくていつも震えていた。だがもう男は二度と起き上がる事は無いのだ。
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