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反抗

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「よくやった辰治」

 辰治がぼんやりと大男の消えた場所を見ていると、背後で声がした。振り向くとエグモントが立っていた。辰治は静かに言った。

「ご主人さま。何であんな奴吸血鬼にしちまったんですか?」
「ケンカで刺されて死にかけてたから吸血鬼にした」

 エグモントはあまりにも安直な考えで人間を吸血鬼にしているのだ。辰治は震える声を抑えながら言った。

「何で一番弱いおやっさんを、あいつの教育係にしたんですか?」
「菊次郎が言ったんだ。新人の面倒は自分が見ると」
「・・・。こうなる事は予想できなかったんですか?」
「・・・、できなかった」
「っ!それは、ご主人が俺たちの事を何も考えていなかったからじゃないんですか?!」

 辰治の声が予想以上に大きくなった。エグモントは辰治が声を荒げた事に驚いたようだ。その顔がさらにしゃくに触った。辰治は声を張り上げてまくしたてた。

「ご主人さまは俺たちを、腹を空かして死にかけているのら犬くらいにしか思ってないんでしょうね?!どこでのたれ死のうと、どうでもいいんでしょう!だけど、のら犬にだって感情はあるんだ!悲しむ気持ちがあるんだ!それをバカにするな!」

 辰治は泣いていた。泣きながら怒っていた。エグモントは端正な顔をゆがめた。少しは菊次郎の死を悲しんでいるのかもしれない。だがそれは辰治の比ではないだろう。

 辰治はエグモントにきびすを返して走り出した。機嫌を損ねたエグモントに殺されてもどうでもよかった。それくらい辰治は菊次郎の死にうちのめされていた。

 走っているうちに涙があふれてきた。やがて涙はおえつになり、辰治は大声をあげて泣きながら夜の街を跳んだ。
 
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