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辰治のぼやき

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 辰治はジュリアに追い払われた後、自分のねぐらである都会に帰ってから、自分の衣服を見下ろした。ジャケットは血まみれで、シャツには大きな穴が空いている。これでは街に人間の血を吸いに行けない。

 辰治は仕方なく深夜までやっている量販店の紳士服コーナーでジャケットとシャツとズボンを盗んだ。

 申し訳ない事をしているとは思うが、身分証の無い辰治は働いて金を稼ぐ事ができないのだ。

 盗んだ衣服を持って、深夜の公園に行く。公園には大きな噴水がある。深夜なので噴水自体は止まっているが、水が溜まっているのだ。

 辰治はボロボロになった衣服を脱ぎ捨て、ゴミ箱に捨てて、噴水の水で身体中の血を洗い流した。

 無意識にエグモントに突き破られた腹を見る。綺麗に傷口が修復されていた。ジュリアという純血の吸血鬼の力の強さがうかがえた。辰治はジュリアの眷属である響の事を思い出した。響は辰治が死にかけた時、心から辰治の事を心配してくれた。響という新米吸血鬼はとてもいい奴だった。

「素晴らしい回復力だ」

 辰治の背後で声がした。振り向かなくてもわかる。辰治の最初の主人エグモントだ。辰治は今すっ裸だった。主人の前では失礼だと思い、濡れた身体に服を着た。べったりと身体に張りついて、気持ち悪かった。

 辰治は振り向いてエグモントに言った。

「ひどいじゃないですか、ご主人さま。もし姐さんが助けてくれなければ、俺は死んでいましたよ」
「なに、今生きているじゃないか。ジュリアは私の意図をわかった上でお前を助けた。辰治、お前はジュリアと精神をつなげる事ができるようになった」

 上機嫌なエグモントに、辰治は顔をしかめた。呼び出された時に嫌な予感はしていたのだ。案の定、ジュリアと響を呼び出して来いという命令だった。

 ジュリアに、お前もグルなのだろうと問われたが、辰治は否定した。だが薄々こうなるのではないかとも思っていた。辰治がジュリアの血をもらえれば、辰治はジュリアの居場所どころか感情の変化までわかってしまうのだ。

 辰治は厳しい顔でエグモントに言った。

「ご主人さま。姐さんは俺の命を助けてくれました。俺のもう一人のご主人になったんです。もしご主人さまが、姐さんを傷つけるような事があれば、いくらご主人さまでも俺は許しません」

 エグモントは辰治の顔をジロジロ見てから答えた。

「辰治、お前は私の犬たちの中でも実に忠実だ。吸血の際に人は殺さないし、女を危険にさらさない。子供の血は飲まない。私が眷属たちに約束させた事をすべて守っている。お前は正しい人間の親に育てられていれば、ひとかどの人物になれていたかもな」

 辰治はどう答えてよいかわからず黙っていると、エグモントは一人で納得したようで、どこかに行ってしまった。

 辰治は濡れた身体が寒くて、ぶるりと身体を震わせた。
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