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引越し

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 響とジュリアの暮らしは、何の問題もなく穏やかに過ぎていった。響がジュリアと出会ってちょうど十年が経った時の事だった。

 響が借りているアパートの大家の女性にしみじみ言われたのだ。

「あんた本当に変わらないねぇ」

 大家の女性が、響から手渡しの家賃を受け取った時の事だった。当然の事だが、大家の女性は十年分の歳を取っていた。

 だが吸血鬼の響は十年経っても二十二歳の若者だった。

「もう潮時ね。住む場所を変えなければいけないわ」

 響からこの事を聞いたジュリアが答えた。つまり引越しをしようというのだ。響とジュリアはダンボールに荷造りを始めた。響が一人で暮らしていた頃は、荷物はほとんどなかった。だがジュリアと暮らし始めて、彼女の荷物が増えた。響にはそれが嬉しかった。

 お金がもったいないので引越し業者は頼まず、自分たちで引越しする事にした。トラックを借りて荷物を積みこむ。響の免許証はだいぶ以前に失効していた。だが新たに免許証の更新をするのも気がとがめた。

 響は十年経っても全く歳を取っていないからだ。響が悩んでいると、ジュリアが免許証の年月日の部分を撫でた。すると免許証の期限が書きかわったのだ。文書偽造だ。だがこれで響は運転する事ができる。

 引越しの時は、呼んでもいないのに辰治が手伝いにきた。ジュリアは辰治の事をよく思っていないようだったが、辰治はおかまいなしに響とジュリアにつきまとっていた。

 響はトラックの運転席に座り、ジュリアを助手席に乗せ、荷物と辰治を荷台に乗せ、十年以上住んだアパートを後にした。

 次に住むのは築年数は経っているが、リノベーションしたアパートだった。また十年ほどしたら引っ越さなければならなくなるだろう。

 衣装ダンスなどの重い物は、響と辰治で運んだ。ジュリアは小物類を部屋に運び込んだ。だがこの中で一番力持ちなのは間違いなくジュリアだ。

 片付けがひと段落してから、手伝ってくれた辰治に焼肉をふるまった。ホットプレートでちょっと高めの肉を焼く。ジュリアはせっかく新しい家なのに、匂いがつくとぼやいていたが、響は家に住んでいる人間の匂いがつくのはいい事だと思っている。

 響がこの家に帰って来た時、きっと安心する匂いになるだろう。

 
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