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動き

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 レイチェルが、張り込みをしているアレックスたちに差し入れを持って行く日が何日も続いた。

 メアリはアレックスたちのために、近場のホテルをリザーブしてくれていたので、アレックスたちはホテルで風呂もトイレも済ます事ができた。

 だが睡眠は車の中でアレックスとエイミーが交代で取るようにしていた。

 レイチェルは、アレックスたちが目に見えて疲労しているのを感じた。キティは定期的にホテルで休ませてもらっているので元気だが、ほとんど不眠不休のアレックスとエイミーの目の下には隠しきれない黒いくまができていた。

「美味しいよ!レイチェル!このハンバーガーはいつ食べても美味しいよね!」

 キティは口の周りをソースでベタベタにしながら大きなハンバーガーを食べている。

 今夜はエイミーのリクエストで、ハンバーガーショップのハンバーガーだ。レイチェルとエイミーがアルバイトをしていた店長が作ってくれたハンバーガーだ。

 エイミーはキティの口のまわりをふいてやりながら、嬉しそうに小さな口でハンバーガーを食べている。

「本当に美味しい。店長のハンバーガーはやっぱり世界一ね」
「ほめすぎだよエイミー。だけどエイミーが喜んでくれたら店長もすごく喜ぶよ。今度皆で店長のところにハンバーガー食べに行こうよ」
「・・・。うん、そうだね」

 レイチェルとエイミーの約束は、今度とかいつかとか明確な日にちを決められない。今度とは何年後の事だろう。五年だろうか、十年だろうか。レイチェルはエイミーの悲しそうな笑顔を見つめた。

 レイチェルは運転席のアレックスに視線をうつした。アレックスは珍しくパソコンをしていなかった。睡眠不足で仕事ができないのかもしれない。

 アレックスは視線をカールの安アパートに向けながら、もくもくとハンバーガーをかじっている。レイチェルはアレックスに質問した。

「ねぇ、アレックス。カールはちっとも外に出ていないの?」
「ええ。キャシーの葬式で外に出て以来、一回もね。メアリとマッドがかわるがわる携帯に連絡しても無視だし、メアリの部下がアパートに食事を届けてもドアを開けないらしいの」
「本当にダメな男ねぇ」
「ええ。でも早く限界が来て外に出てくれないと、私たちが先に限界だわ」

 アレックスの言葉にレイチェルもうなずいてから言った。

「ねぇアレックス。明日は日曜日だから、私が車で張り込みをするわ。アレックスとエイミーは、キティを連れてホテルで休んできて?」
「・・・。そうさせてもらおうかしら。だけどレイチェル。絶対に寝ないでよ?」
「ね、寝ないわよ!安心して!」

 レイチェルは宣言したが、規則正しい生活を送っているレイチェルが、はたして夜通し起きていられるかというと不安はあった。

 その時エイミーが声をあげた。

「カールさんが動き出した!」
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