殺人鬼から逃げ切ったら超能力が目覚めた件〜ファイナルガールズの逆襲

張り込み

　次の日からレイチェルの生活は一変した。レイチェルは朝一人で起きて学校に通い、アパートに帰ってから、アレックスから送られたメールから、必要な品物を持って、張り込みをしているカールのアパートまで飛んでいかなければいけなかった。

　今夜の夕食は、キティのリクエストで、チキンソテーのサンドイッチだ。ジューシーなチキンソテーを焼いて、パンにたっぷりマヨネーズをぬり、シャキシャキのレタスを入れてサンドするのだ。

　サンドイッチと紅茶のポットをリュックサックに入れて、レイチェルは空に飛び立った。

　できるだけ人に見つからないように、空高く飛ぶ。上空高くなれば高くなるほど風は強く冷たい。

　だがレイチェルは行かなければいけない。とても面倒くさいが、何より一人ではさびしい。

　レイチェルは羊男の殺人鬼に襲われて以来、ずっとアレックスとキティが側にいてくれた。エイミーが復活してからは、彼女たちが常にレイチェルの生活の中にいた。

　突然一人でアパートで寝起きするようになって、レイチェルは叫び出してしまいそうなほどの孤独を感じたのだ。

　レイチェルがアレックスたちの車の中で過ごす時間はごくわずかだ。次の日は学校があるため夜中になったら一人でアパートに帰らなければいけない。

　レイチェルがアレックスの愛車のジープに到着すると、気づいたキティが飛び出して迎えてくれた。

「やっほー、レイチェル。チキンソテーサンドは？！」

　たとえ待っていたのがレイチェルではなくチキンソテーサンドだったとしても、レイチェルはキティの可愛い笑顔に癒された。

「お帰りなさい、レイチェル」

　エイミーも車から降りて出迎えてくれる。アレックスは運転席からレイチェルを見て言った。

「レイチェル、変わった事はない？」
「ええ、大丈夫よ」

　アレックスはそう、と答えて再び膝の上のノートパソコンを叩きだした。アレックスはどんな時でも仕事をしなければいけない。レイチェルたちを養うために。

　メアリはアレックスに、資金提供をしたいと申し出てくれた。アレックスは張り込み中にかかる経費は受け取る事を承諾したが、ライオン男を倒す報酬についてはガンとして受け取らなかった。

　自分たちは金が欲しくてライオン男を倒そうしているわけではない、と。レイチェルはアレックスの信念は立派だと思うが、少しくらいは報酬をもらってもよかったのではないかと考えている。

　アレックスの扶養家族は三人に増え、しかも連日の殺人鬼退治。家計は決して楽とはいえなかった。

　レイチェルはアレックスに言いたい事を言えずにチキンソテーサンドを皆に配った。

　すぐさまチキンソテーサンドにかぶりつこうとするキティをたしなめて、エイミーがウェットティッシュで手をふかせる。

　レイチェルはチキンソテーサンドのラップを取って、アレックスの口元に持っていく。アレックスはガブリと豪快に食いつくと、もくもくとそしゃくを続けている。

　アレックスがサンドイッチを飲み込んだ後、レイチェルはカップに淹れた紅茶を彼女の口元に近づける。

　アレックスはパソコンの画面を見つめたまま器用に紅茶を飲んでいた。