殺人鬼から逃げ切ったら超能力が目覚めた件〜ファイナルガールズの逆襲

誓いのキス

　エイミーはすやすやと眠っているレイチェルの寝顔を、愛おしげに見つめていた。

　身体の疲労はピークを超えていて、今にも倒れ込みそうだが、エイミーはずっとレイチェルを見ていたいと思った。

　レイチェルにも困ったものだ。レイチェルは一度気になった事は、しっかり探究が済むまであきらめない性格だ。

　きっといつも頬にしているエイミーのくちびるの感触を、どうしてもくちびるで確認してみたくなったのだろう。こういうところはキティよりも子供っぽい。

　エイミーは二度もレイチェルのくちびるにキスをした。

　一度目は、今思い出しても身震いしてしまう。あの時のレイチェルの姿は、まるでバケモノのようだった。まだ身体の骨がしっかりくっついていなかったのだろう。レイチェルは壊れたロボットのようにギクシャクとエイミーたちのところに歩いて来た。顔の左半分は潰れていて、左目は眼窩からこぼれ落ち、垂れ下がっていた。

　右側の顔は、かろうじてレイチェルの美しさの面影を残していた。だがエイミーが恐怖を感じたのはレイチェルの外見にではない。

　レイチェルは殺人鬼たちと同じ、バケモノになりかけていたのだ。言葉もままならず、たどたどしかった。

　エイミーが遭遇した殺人鬼は、羊男とニワトリ男だげだが、二体ともまともな言葉は話せなかった。レイチェルは少しずつバケモノに近づいて行っていた。

　エイミーがレイチェルと一緒に行くと言った時、レイチェルは少し戸惑った様子を見せた。

　エイミー、私が怖くないの？

　レイチェルの言葉を聞いた途端、エイミーは猛烈に怒りがわいた。エイミーのレイチェルに対する感情は、見た目の変化だけで変わるものではない。

　エイミーにとってレイチェルの存在は絶対なのだ。たとえレイチェルの外見がみにくく変わろうとも、心までバケモノになろうとも、レイチェルはレイチェルなのだ。エイミーがこの世でもっとも愛する存在なのだ。

　バケモノに変ぼうしかけているレイチェルを見て、アレックスはレイチェルにショットガンを向けた。その直後、エイミーは脳裏に未来の情景を視たのだ。

　アレックスがレイチェルに発砲した直後、レイチェルは完全なるバケモノへと変わった。レイチェルは意味の無い絶叫を叫び、瞬時にアレックスを引き裂いて殺した。

　そして次にレイチェルが狙うのは、目の前のエイミーだ。

　絶対にさせてはいけない。エイミーは未来を変えるべくがむしゃらになった。エイミーは無我夢中だったのだ。

　エイミーはレイチェルの首に抱きつくと、歯ぐきがむき出しになったくちびるに自分のくちびるを押しつけた。