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ジニーの後悔2
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ジニーは娘の棺が深い穴の底に安置されるのをぼう然と見つめていた。最初に夫がシャベルで土をすくって穴の中に落とした。次はジニーの番だ。
ジニーはギクシャクと動きながらシャベルを受け取り、土を小さくすくって穴に落とした。
次は親戚にシャベルを手渡そうとした時、ジニーの身体はぐらりと傾いた。とっさに別な親戚の女性がジニーを支えてくれた。
親戚の女性に支えられて、何とかシャベルを次の人に手渡すと、親戚の女性は、ジニーを連れて葬列者の群から外れた。
ジニーを支えてくれている親戚の女性は何も言わなかった。ジニーにとってはありがたかった。ジニーはぼんやりしながら娘のために駆けつけた葬列者たちを眺めていた。
「あの、」
突然声をかけられ、ジニーは機械的に振り向いた。そこには美しい少女がいた。ブロンドの髪に青い瞳。凛としたいでたちは、一目で育ちの良さがわかる。
ジネットの友達にしては品が良すぎる。一体誰だろうか。ジニーはぼんやりとしたまま、美しい少女を見ていると、少女は意を決したように口を開いた。
「あの、ジネットのお母さんですよね?私、ジネットの友達のレイチェル・セバーグといいます」
レイチェル・セバーグ。どこかで聞いた名前だ。ジネットの友達など、一人も紹介された事がないのでわからない。そこでジニーはハッと気づいた。
ジネットの異変を警察に知らせてくれた少女だ。ジニーは少女に向き直り、しっかりした声で礼を言った。
「貴女が警察に連絡してくれたのね?どうもありがとう。貴女が連絡してくれなければ、ジネットはずっとあのままだったわ」
レイチェルと名乗った少女は、軽く会釈をしてから言葉を続けた。
「ジネットの友達といっても、私最近彼女と知り合ったから、まだそんなにジネットの事知らないんです。だから、ロッジに誘ってもらった時、用事があって一度断ったけど、用事を済ませてまた連絡したんです。ジネットともっと仲良くなりたいなって思って」
そこでレイチェルは言葉を切った。きっとその時の事を思い出しているのだろう。レイチェルはこわばった顔で言葉を続けた。
「電話に出たジネットの声はとてもか細くて。最初何て言っているかわからなかった。だけど、助けてって言ってるってわかったから。どうしたの?ってずっと声をかけていたんです。だけどジネット助けてというだけで私の声が聞こえていないようだった。ジネット、最後に言ったんです。ママッて」
レイチェルの言葉に、ジニーはギクリと身体を震わせた。レイチェルは実年齢よりもはるかに年上のような、慈愛のこもった瞳でジニーを見つめて言った。
「ジネットはあの時、私じゃなくて、お母さんである貴女に言っていたんだと思います。助けて、ママって」
ジニーはあまりの衝撃に、身体がブルブル震え、その場にくずおれそうになった。慌てて親戚の女性がジニーを抱き抱えて支えてくれる。
「ジネット!ジネット!ごめんなさい、ごめんなさい。ママ、貴女に何にもしてあげる事ができなかった!」
これはジニーの懺悔だ。娘が幼い頃からほったらかしにして、おかしな事件に巻き込まれて命を奪われる時、ジニーに助けを求めてくれたのに、自分は何もする事ができなかった。
ジニーは狂わんばかりに泣き叫んだ。ふときづくと、ジニーを支えてくれている親戚の女性の他に、自分の肩に手を置く者がいた。
ジニーが泣きはらした目を開くと、レイチェルが優しいまなざしでジニーを見つめていた。
「ジネットのお母さん。あまりご自分を責めないでください。私は幼い頃、両親が事故で死んでしまって、両親の愛情というものを受けた記憶がありません。でも想像するんです。私の両親は、私の事をとても愛してくれていたはずだって。そう考えるだけで、心があたたかくなるんです。だから、お母さんがジネットの事を思って泣いてくれる事を、ジネットは喜んでくれていると思いますよ」
レイチェルはそれだけ言うと礼義ただしく黙礼をして帰って行った。
それからもジニーの涙は中々止まらなかった。ジニーは親戚の女性に抱きしめられながら泣き続けた。だかこの涙は以前の涙と違って、心から愛する娘のために流す涙だった。
ジニーはギクシャクと動きながらシャベルを受け取り、土を小さくすくって穴に落とした。
次は親戚にシャベルを手渡そうとした時、ジニーの身体はぐらりと傾いた。とっさに別な親戚の女性がジニーを支えてくれた。
親戚の女性に支えられて、何とかシャベルを次の人に手渡すと、親戚の女性は、ジニーを連れて葬列者の群から外れた。
ジニーを支えてくれている親戚の女性は何も言わなかった。ジニーにとってはありがたかった。ジニーはぼんやりしながら娘のために駆けつけた葬列者たちを眺めていた。
「あの、」
突然声をかけられ、ジニーは機械的に振り向いた。そこには美しい少女がいた。ブロンドの髪に青い瞳。凛としたいでたちは、一目で育ちの良さがわかる。
ジネットの友達にしては品が良すぎる。一体誰だろうか。ジニーはぼんやりとしたまま、美しい少女を見ていると、少女は意を決したように口を開いた。
「あの、ジネットのお母さんですよね?私、ジネットの友達のレイチェル・セバーグといいます」
レイチェル・セバーグ。どこかで聞いた名前だ。ジネットの友達など、一人も紹介された事がないのでわからない。そこでジニーはハッと気づいた。
ジネットの異変を警察に知らせてくれた少女だ。ジニーは少女に向き直り、しっかりした声で礼を言った。
「貴女が警察に連絡してくれたのね?どうもありがとう。貴女が連絡してくれなければ、ジネットはずっとあのままだったわ」
レイチェルと名乗った少女は、軽く会釈をしてから言葉を続けた。
「ジネットの友達といっても、私最近彼女と知り合ったから、まだそんなにジネットの事知らないんです。だから、ロッジに誘ってもらった時、用事があって一度断ったけど、用事を済ませてまた連絡したんです。ジネットともっと仲良くなりたいなって思って」
そこでレイチェルは言葉を切った。きっとその時の事を思い出しているのだろう。レイチェルはこわばった顔で言葉を続けた。
「電話に出たジネットの声はとてもか細くて。最初何て言っているかわからなかった。だけど、助けてって言ってるってわかったから。どうしたの?ってずっと声をかけていたんです。だけどジネット助けてというだけで私の声が聞こえていないようだった。ジネット、最後に言ったんです。ママッて」
レイチェルの言葉に、ジニーはギクリと身体を震わせた。レイチェルは実年齢よりもはるかに年上のような、慈愛のこもった瞳でジニーを見つめて言った。
「ジネットはあの時、私じゃなくて、お母さんである貴女に言っていたんだと思います。助けて、ママって」
ジニーはあまりの衝撃に、身体がブルブル震え、その場にくずおれそうになった。慌てて親戚の女性がジニーを抱き抱えて支えてくれる。
「ジネット!ジネット!ごめんなさい、ごめんなさい。ママ、貴女に何にもしてあげる事ができなかった!」
これはジニーの懺悔だ。娘が幼い頃からほったらかしにして、おかしな事件に巻き込まれて命を奪われる時、ジニーに助けを求めてくれたのに、自分は何もする事ができなかった。
ジニーは狂わんばかりに泣き叫んだ。ふときづくと、ジニーを支えてくれている親戚の女性の他に、自分の肩に手を置く者がいた。
ジニーが泣きはらした目を開くと、レイチェルが優しいまなざしでジニーを見つめていた。
「ジネットのお母さん。あまりご自分を責めないでください。私は幼い頃、両親が事故で死んでしまって、両親の愛情というものを受けた記憶がありません。でも想像するんです。私の両親は、私の事をとても愛してくれていたはずだって。そう考えるだけで、心があたたかくなるんです。だから、お母さんがジネットの事を思って泣いてくれる事を、ジネットは喜んでくれていると思いますよ」
レイチェルはそれだけ言うと礼義ただしく黙礼をして帰って行った。
それからもジニーの涙は中々止まらなかった。ジニーは親戚の女性に抱きしめられながら泣き続けた。だかこの涙は以前の涙と違って、心から愛する娘のために流す涙だった。
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