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ジニーの後悔

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 目の前の出来事がいまだに現実とは認識できなかった。ジニーはともすればその場にへたりこんでしまいそうになるのを、必死にこらえて立っていた。

 今自分がここで倒れてはいけない。何故なら最愛の娘の葬式の真っ最中だからだ。

 最愛の娘、だったのだろうか。娘のジネットは手のかからない子供だった。ジニーと夫は仕事で忙しくしていて、めったに自宅に帰る事はなかった。

 ジネットは幼い頃はナニーが、成長してからは家政婦が世話をしていた。たまにジニーが家に帰ると、ジネットは控えめに甘えてきた。自分の娘はなんて出来の良い子供なんだろう。

 娘のジネットはジニーの自慢だった。だがそれはジネットの我慢にすぎなかった。ジネットは両親に甘えられない気持ちをひたすら抑圧されて育った。スクールに入ってからのジネットは、すっかり変わってしまった。

 似合わない厚い化粧をして、よくない友達と付き合いだした。ジネットが寂しくないように、せめてもと思い渡していた小遣いは、湯水のように使われた。

 夫は、お前の育て方が悪かったからだとジニーをなじったが、ジニーは子育てなんてしてこなかった。

 ジニーは、貿易会社の社長である夫の秘書だった。夫婦という関係に変わってからも、根底は変わらなかった。おおやけの場では夫の事を社長と呼び、夫と共に世界中を飛び回っていた。

 たまに自宅へ帰って来ては、ジネットとの時間を持とうとするが、遅すぎたのだ。ジネットはジニーに心を開いてくれる事はなかった。

 月日が経てば、いつかはジネットと仲の良い親子に戻れるかもしれない。はかない夢を抱いていたジニーの思いは永遠に打ち砕かれた。

 外国で仕事をしている時に国際電話が入った。電話は警察からだった。娘さんが何らかの事件に巻き込まれて亡くなられました。

 ジニーはとるものもとりあえず帰国した。夫はどうしても仕事が抜けられないという事で、その場に止まった。ジニーは混乱する頭の中で、夫との夫婦の関係は終わるだろうと思った。これまでも夫婦らしい事は何もなかった。ジネットの存在が、夫とジニーをかろうじて家族としていたのだ。

 病院の遺体安置所で再会したジネットは綺麗だった。表情も穏やかで、まるで眠っているようだった。身体は清拭されていて、化粧を取ったジネットは、まだ幼い頃の面影を残していた。

 ジニーは娘にすがりついて号泣した。だが頭の片隅では、娘を大切にしなかった自分には悲しむ資格は無いのだと感じていた。

 医者の説明では、ジネットの身体は表面上は傷一つついていなかった。だが内臓には深い傷があり、この傷が元で失血性ショックを起こして亡くなったのだと説明された。

 医者の説明をぼんやりしながら聞いていたジニーは、話しの内容はちっとも理解できなかった。

 医者はジニーを相手にひたすら話し続けていた。

 お嬢さんの死因も、お友達の死因も実に奇妙なのです。身体の表面は綺麗なのに、内臓には致命的な傷がたくさんあるのです。

 まるで無惨に斬り刻まれた後に、何らかの不思議な力で表面を治癒させたとしか思えないのです。
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