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 レストランには広い駐車場が備え付けられているが、早朝という事もあって、停まっている車はまばらだ。

 レイチェルは車から降りて、レストランに入って来た客を装って、客席のソファに座った。だらしなく足を組んで座る。レイチェルはこれからジネットの友人を演じなければいけないのだ。

 観客は、迷惑そうにレイチェルをにらんでいる店員の中年男だ。店員の男は投げやりな態度でレイチェルに注文を取りに来る。レイチェルはおうへいな態度でレモネードを注文した。

 レモネードが届くと、レイチェルはゆっくりとした動作でレモネードを飲んだ。のどの奥に染み渡るほど美味しかった。レイチェルはのどがとても渇いていて空腹だった。昨日の昼から何も食べてないのだから仕方がない。

 ストローなんか放り投げて、グラスからあおって飲みたい衝動を抑え、ゆっくりとレモネードを飲む。ようやくのどの渇きも落ち着くと、レイチェルは携帯電話を取り出した。先ほど入力したジネットの電話番号を出す。

 数回のコールの後、通話状態になる。アレックスがジネットの携帯電話で通話しているのだ。レイチェルは大きな声でどなるように言った。

「あ、ジネット?!あたし!今パーティー終わったの!すっごい盛り上がったんだから!ねぇ、あんたのところまだ騒いでんでしょ?あたしもこれから行っていい?・・・、ちょっと、ジネット、あんた返事しなさいよぉ」

 レイチェルは大声を出しながら先ほどの店員を横目で見る。店員は新聞を広げて読んでいるが、レイチェルの大声に注目しているのがうかがえた。

 電話口では、アレックスがささやくような小さな声で、助けてと言っている。

「はぁ?!何よ、からかってんの?!ジネット、聞こえない!ちゃんとしゃべってよぉ!」

 プッと機械音がする。アレックスは通話を切ったのだ。レイチェルは大声でジネットの名前を呼ぶ。

 もう一度ジネットに電話をかけるが、もちろん通じない。レイチェルは心細そうにソワソワしだしてから、助けを求めるように店員を振り向く。店員は面倒事に巻き込まれたくないのだろう、新聞を熟読しているようにみせかけてレイチェルを無視する。

 レイチェルは次に警察の番号をタップする。女性オペレーターのテキパキした声が耳に入る。

「警察です。事件ですか?事故ですか?」
「あ、あの。よくわかんないんですけどぉ。なんか、友達に電話したら、なんかおかしくてぇ」

 できるだけバカっぽいしゃべり方で。だが、不安そうな態度を震える声に乗せて。女性オペレーターは優しい声で先をうながしてくれる。

「オーケー。貴女の名前は?」
「あたし、レイチェル・セバーグ」
「お友達の名前は?」
「ジネット・バートリー」
「ジネットに電話したら、何かおかしかったの?」
「うん、いえ、はい。ジネット昨日から友達とロッジで過ごすって言ってて、あたしも誘われてて。だけどあたしは別な友達との用があったから断ったんです。だけど、やっぱりロッジに行きたくて、さっきジネットに電話したんです。そしたら、助けてって」
「ジネットは助けを求めていたのね?」
「ううん、小さな声でよく聞こえなくて。あたし最初、からかわれているのかなって。だけどジネット、楽しい事が好きだけど、相手を不安にさせるような事はしないの。それで電話が切れちゃって。もう一度電話しても通じないの」
「わかったわ。ロッジの場所わかる?」

 レイチェルはロッジの住所を女性オペレーターに伝えた。女性オペレーターは、事件の可能性も考えて、決してレイチェル一人でロッジに向かわない事を約束させてから電話を切った。

 レイチェルはフウッとソファの背もたれにもたれかかった。レイチェルのやるべき事はこれで終わった。

 レイチェルが携帯電話を見ると、アレックスからメールが入っていた。ジネットの電話を受けた後、レイチェルを迎えにレストランに向かっているという。

 レイチェルはアレックスたちが迎えに来るまで、身じろぎせずにソファにもたれかかっていた。
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