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アレックスの怒り

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「最初、サラが持ってきた話しだったの。サラがかけ持ちしているバイト先のオーナーが、知り合いから頼まれた仕事だって言ってたわ。ロッジの清掃をすれば二、三日好きに使っていいっていう仕事。私たちは喜んで仕事を受けたわ。その時とにかくお金がなかったの。どこかに行くなんて考えられなかった。そんな時、ふってわいた話しだった」

 それまで笑顔だったアレックスは、苦いものを噛んだように顔をしかめた。

「今考えたら、とてもおかしな仕事だったのよね。事件の後、サラのオーナーに確認したら、手紙だけで依頼された仕事で、オーナーはその相手に心当たりが無かったんだって。だけど銀行にお金か振り込まれてしまっていたから、信頼できるサラに仕事をお願いしたって言ってわ」

 アレックスはギュッとキティを抱きしめてから再び口を開いた。

「私たちはニックの車でロッジに行ったわ。到着してみると、とても綺麗なロッジだった。これなら掃除はそんなに必要なかった。私たちが使った後にまた掃除すればいいだけだった」

 アレックスは楽しかった記憶を思い出すように小さく笑った。

 アレックスたちは買い込んだ食材で豪華な食事を作り、大いに食べて飲んで騒いだ。

 大人になって成功したら、またこのように四人で集まろうと固く約束して。だがこの約束は二度と叶わなかった。

 夜もふけてそろそろ寝ようとした時だった。部屋は三つあり、アレックスとサラが一つの部屋を使い、ニックとジョンが一部屋を使った。

 どのくらい時間が経ったのだろう。ガチャンとガラスの割れる音がした。アレックスとサラが恐怖に身をかたくしていると、ニックとジョンがアレックスたちの部屋のドアを叩いた。

 様子を見てくるからカギをかけて部屋で待つようにと。それがアレックスが聞いたジョンの最期の言葉だった。

 アレックスとサラは抱きしめ合いながらジョンたちが帰ってくるのを待った。きっと風で何かが窓ガラスに当たって割れただけだ。

 すぐにジョンとニックが笑いながら帰ってくるはずだ。アレックスたちの望みは、ロッジ内にこだまする悲鳴によって打ち砕かれた。

 アレックスとサラはただちに部屋を飛び出し、ジョンたちがいるであろうリビングに走った。リビングには明かりがついていた。きっとジョンたちがリビングを確認するためにつけたのだろう。

 リビングに入ったアレックスとサラは我が目を疑った。そこには奇妙な男が立っていた。ものすごく長身で、顔にはライオンのゴム製のマスクをかぶっていた。

 手には薪割り用の斧が握られていた。斧からは血がポタポタとしたたっていた。

 このおかしな男は誰だろう。ジョンたちはどこに行ってしまったのだろう。そこでアレックスはある臭いに気づいた。鉄くさい、これは血の臭いだ。

 そう気づくと同時に、アレックスはリビングの床に目をやった。さっきまで座っていたソファに隠れるようにジョンが仰向けに倒れていた。肩から腰まで深い傷があり、ジョンの周りには血だまりができていた。

 遠目からもジョンはすでに絶命している事がアレックスにもわかった。きっと目の前のおかしな男に殺されたという事にも思いいたった。

 アレックスが叫び声をあげようとする前に、サラがかなぎり声を上げた。
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