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ユリス怒る

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 ユリスはまゆをひそめてごうまんな男に言った。

「少し待ってください。この女の子の方がケガがひどい」
「ならぬ!わしを誰だと思っておる!わしは貴族だぞ?!」

 貴族とうそぶく男の言葉に、ユリスのこめかみがピクリと動いた。これは怒りだ。ユリスは怒りで震えそうになる声で男に言った。

「しばらく動くな」

 ユリスは魔法で貴族の男の動きを止めた。ユリスは不安そうな母親に振り向くと、微笑んで言った。

「今から娘さんの治療をします。出血しますから、貴女は目をつむっていてください」

 母親はキッと厳しい顔になり言った。

「いいえ!見届けさせてください」

 母親は決意の表情で娘の手を握った。ユリスは母親の強い愛情に驚いた。ユリスはうなずくと、娘の首すじに刺さったガラス片を引き抜いた。激しく血が噴き出す。ユリスは瞬時に治癒魔法で傷口をふさいだ。

 ユリスはフゥッと息を吐いた。母親が娘の首すじのガラス片を抜かなかった判断は正しい。もし母親が動転してガラス片を抜いていたら大量出血をして娘は助からなかっただろう。

 ユリスはごう慢な貴族をにらんで、動きを元に戻した。貴族の男は怒りに顔をゆがめ、ユリスの胸ぐらを掴み上げて叫んだ。

「貴様、よくもわしの命令を無視したな!ただで済むと思うなよ!」
「ほぉ?どんな事をするのだ?」
「わしが一言いえば魔法使いとして働けなくしてやるぞ!」
「一つ聞いておく。お前の爵位は?」
「ふん、教えてやろう。わしはボンバ男爵だ」

 貴族の男ボンバ男爵は、ユリスが平身低頭あやまるとでも思ったのだろう。ユリスが何の反応もしめさない事をふしんに思ったようだ。ユリスは権力を振りかざし、自分の思い通りに事を運ぼうとする人間を心底軽べつしている。

 ユリスは地をはうような低い声で言った。

「今すぐこの汚い手をどけろ。貴様も貴族のはしくれならばこの国の王子の顔をよもや忘れたわけでないな?」

 ボンバ男爵は、ユリスの顔をまじまじと見た。そしてヒェッと小さな悲鳴をあげて言った。

「ま、まさか貴方様は」
「私はシュロム国第七王子ユリスだ。ボンバ男爵、貴様の使用人への振る舞い、大したものだな?この事は国王陛下に進言しておく、追ってさたを言い渡すから覚悟しておけ」
「ど、どうかお許しを!」

 ユリスは頭を地面にこすりつけて謝るボンバ男爵を無視して、娘を抱きしめて震えている母親の側にしゃがみ込んだ。母親は震える声で言った。

「ユリス王子、ご無礼をお許しください」

 ユリスは微笑んで答えた。

「貴女の勇気と母親の愛情が娘さんを救ったんです。私はとても感動しました」

 ユリスは母親の足を見た。どこかでクツが脱げてしまったのか、裸足でガラスをふんでしまったらしく、血だらけだった。

 ユリスは魔法でガラス片を取り除くと、治癒魔法で傷をふさぎ、土魔法でクツを作ってはかせた。

 その後も沢山のケガ人が運ばれたが、中には息絶えている者もいた。おおかたのケガ人の治療が終わった後、ユリスは最初に助けた使用人の男に言った。

「これから魔法戦が始まります。亡くなった方たちを置いて行くのは心苦しいでしょうが、安全な所に避難してください」

 使用人の男は厳しい顔でうなずいて、皆に指示を出して歩かせた。ユリスは上空を見上げた。屋敷の周りには強力な防御魔法が張られていた。

 魔法の師であるセミルが、屋敷の者たちが避難するまで守ってくれているのだ。ユリスは亡くなった人たちに防御魔法を張ると、浮遊魔法を身にまとい上空に飛び上がった。

 

 

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