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炎の中

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 ユリスが燃え盛る屋敷の上空に行くと、炎の熱気で呼吸もままならなかった。早く屋敷の炎を消化しなければ、中にいる人たちが危険だ。

 だがユリスがちまちまと氷魔法を使っても、らちがあかないだろう。ユリスは以前師匠であるセミルの使った魔法を再現する事にした。ユリスは呪文を詠唱した。

 目の前に大きなドラゴンが出現した。全身氷でできたドラゴンだ。ユリスは右手を高くあげ、大きく振り下ろした。氷のドラゴンは高々と咆哮をあげ、口から氷の息をを吐き出した。

 氷のドラゴンは縦横無尽に飛び回り、屋敷の炎を消化する事に成功した。ユリスは氷のドラゴンを解除すると、肩で激しく呼吸をした。氷のドラゴンの魔法で大きく魔力を消費してしまった。

 ユリスはすぐさま燃え崩れた屋敷の中に飛び降りると、生存者を探した。

 だが最上階は燃え尽きてしまい、人の影すら見えなかった。ユリスが注意深く歩いていると、何かにけつまずいた。見ると黒く燃え尽きたかたまりだった。

 ユリスは何だろうと顔を近づけて気づいた。鼻腔にただよういような臭い。この黒いかたまりは人間だ。ユリスは胃が迫り上がってくるような感覚を覚え、ゲェゲェと胃の中の物を吐いた。

 ユリスは泣きながらおえつした。ユリスは生まれて初めて亡くなった人間の死体を目の当たりにしたのだ。

 きっとこの黒こげになった人は、いつもと変わらない明日が来ると信じていたのだろう。それなのに、理不尽な暴力により、あっけなく命が奪われてしまったのだ。

 ユリスはとても恐ろしかった。身体がブルブル震えて動く事ができなかった。早く生存者を助けに行かなければいけないのに、死者を目の前にして身体がすくんでしまったのだ。

 師匠のセミルがユリスを信頼して任せてくれたのに。自分は師匠の期待にも応えられないのか。頭の中で兄弟や大臣たちのちょう笑が聞こえる。

 第七王子ユリスは出来損ないだ。役立たずだ。いっそいなくなってしまえばいいのに。

 ユリスは泣いていた。やはり自分は無力な存在なのだ。死を恐怖して一歩も動けない。

 私はユリス王子を信じております。

 ふと、幼い頃魔法の家庭教師をしてくれた老魔法使いの言葉を思い出した。

 ユリスを指導してくれた老魔法使いは、とても慈愛に満ちた教師だった。幼いユリスを自分の孫のように愛し育ててくれた。

 ユリスが兄弟たちのこころない言葉に傷つき泣いていると、決まって老魔法使いが言ってくれたのだ。

 ユリス王子はいずれ素晴らしい魔法使いになって多くの助けを求める人々を救うでしょう。

 老魔法使いの言葉は、自分に自信が持てないユリスにとって心の支えだった。他人から感謝の言葉が欲しいわけではない。誰かがユリスの手助けで助かるのならば、それはユリスが救われる事にほかならない。

 ユリスはゆっくりと深呼吸をすると、両手で自分の頬を叩いた。ジンと頬が熱くなる。ユリスは燃え尽きた廊下を走り出した。
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