上 下
257 / 298

家族

しおりを挟む
 翌朝ユリスたちが朝食を食べた後、セミルが宣言した。

「よし。ユリスたちの修行が終わったから、これからじっせんをかねて冒険者の依頼を受ける。ユリス、お前の冒険者レベルは何だ?」
「はい、師匠。僕の冒険者レベルは1です」
「話しにならんな。それはいいとして、これから王都の冒険者協会に行くぞ」

 セミルはそう言うとテキパキと魔法具のテントを片付け、フィンとブランに飛行魔法をかけて空に飛び立った。ユリスも慌てて後に続く。

 セミルの飛行魔法はとても速く、ユリスはついていくのがやっとだった。きっとユリスの魔法の修行のためだろう。それに付き合わされるフィンとブランは気の毒だ。二人はぐったりとした状態で飛んでいた。

 セミルはユリスたちに言った。

「おい、お前たち。王都に言ったら俺の名前呼ぶなよ」
「わかったよ、セミル!」
「・・・。本当にわかってるんだろうな?フィン」

 セミルは元気に返事をしたフィンに懐疑的だ。

 王都に着くと、セミルは市場の店と店の間の小道に降り立った。ユリスたちもそれに続く。

 ユリスが師匠であるセミルを見ると、セミルがいなかった。代わりにひげ面の中年男がセミルのいた場所に立っていた。

「師匠?!」
「ああ」

 驚いた事にこのひげ面の男がセミルだと言うのだ。フィンは驚きの声で言った。

「セミル!それも、魔法なの?!」
「フィン。言ったよね?王都ではその名前で呼ばないって」
「ごめん、忘れてた」
「俺は死んだとはいえシュロム国でもおたずね者なの!だからユリスとフィンは俺の事、お父さんと呼びなさい」

 ユリスはセミルの事を師匠と呼んでいるから必要ない気がするのだが、フィンは何故か嬉しそうだ。フィンがセミルに聞いた。

「でもセミル。親子って言っても僕とユリスは全然似てないよ?かえっておかしくない?」
「いいの!他人はそれほど俺たちに注目なんかしません。気にする人がいたとしても、子連れ同士が再婚して女房に逃げられた三人家族って言えばそれ以上せんさくなんかされません!」

 フィンは納得したようだ。ユリスはフィンに聞いた。

「フィン、なんか嬉しそうだね?」
「うん。僕孤児だからお父さんができたのが嬉しいんだ」
「えっ!だってバレットはフィンのお兄さんでしょ?!」

 そこでユリスはハッとした。フィンとバレットは全く似ていない、血のつながりがないのだ。ユリスはフィンに悪い事を言ってしまったと思い黙っていると、フィンがさびしそうな笑顔で答えた。

「バレットも家族がいないんだ。だから僕たちは兄弟になった」
「フィン」

 別人に姿を変えたセミルは、ポンとフィンの頭に手を置いて言った。

「フィン。家族ってのは血のつながりがすべてじゃない。俺たちだってわずかな期間だが一緒に暮らしてる。これも家族ってもんだ」

 フィンが驚いた顔になった。ユリスもセミルの言葉に続く。

「じゃあ僕、フィンの兄さんになってあげる!」
「ええ?!ユリスと僕同い年じゃないか!ずるいよ!」

 ユリスとフィンがどちらが兄になるかでもめていると、セミルがパンパンと手を叩いて言った。

「はい、くだらない事であらそわないの!息子たち行きますよ」

 ユリスとフィンはセミルの後に続いた。
 



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

処理中です...