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悪あがき

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 ユリスは防御ドームの中で途方に暮れてしまった。魔法を使えないユリスにはどうする事もできなかった。

 このままジッとしていればセミルの勝ちで、防御ドームから出してもらえるかもしれない。セミルはユリスの魔法の師匠なのだ。ユリスに危害を加えたりはしないだろう。だが、とも思う。ユリスはセミルに魔法を教わる際、悪と対じした時はためらわずに戦うと誓った。

 セミルは自分を殺すつもりで戦えといった。つまりユリスの敵として戦えといわれたのだ。ユリスはこの魔法を使わないでセミルの結界から脱出しなければいけない。

 ユリスは腰にさげている魔法の袋を手に取った。この袋は魔法をかけて、何でも入るようにしてあるのだ。この中に何か脱出の助けになる道具が入っていないか確かめようとした。ユリスが袋の中をのぞいてみると、中身は空っぽだった。

 セミルの結界内では荷物すら取り出せないのだ。ユリスが落胆していると、結界の異変に気づいた。防御ドームの結界が、小さくなっているのだ。ゾクリと背筋が寒くなった。このままでは結界に押しつぶされてしまう。

 ユリスは身体中を触って脱出に使える物はないかと探した。胸元に触れると、硬い何かを触った。取り出してまると二本のナイフだった。

 ユリスはフィンの鉄生成魔法の精度の高さに驚いて作り方を教わったのだ。一つはユリスが作ったナイフ、もう一つはフィンの作ったナイフだった。

 ユリスは自分で作ったナイフを防御ドームに叩きつけた。小さなナイフでは傷ひとつつけられなかった。ユリスはやたらめったらナイフを叩きつけて防御ドームを壊そうとした。

 だが壊れたのはユリスの作ったナイフの方だった。ユリスは次にフィンからもらったナイフを防御ドームに刺した。わずかだがドームの壁に傷をつける事ができた。ユリスは一心不乱にナイフを刺し続けた。ミシリと一本の亀裂が入り、防御ドームが破壊できた。

 ユリスは空中に放り出された。すかさず浮遊魔法を発動させて体制を立て直す。ユリスの姿をセミルはさも楽しそうに見て言った。

「ほう?俺の防御ドームを破壊するとはな。どうやったんだ?」
「はい。フィンからもらったナイフで壊しました」
「へぇ!フィンの鉄生成魔法はすげぇな!」

 セミルはとても愉快そうに笑った。ユリスは深く深呼吸をした。セミルに少しでも反撃するには、自分の持てる最大限の魔力を投じなければならない。

 ユリスはふとある事を思い出した。セミルとフィンの会話だ。セミルは体力がないので、フィンの武闘に負けてしまったといっていた。そこに賭けるしかない。何とかセミルの間合いに入って肉弾戦に持ち込むしか道はない。
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