上 下
227 / 298

冒険者ユリス

しおりを挟む
 ユリスは上機嫌でフィンに礼を言った。

「フィンありがとう!これで僕は自由な身だ!」
「これからどうするの?ユリス」
「僕はフィンみたいな冒険者にずっと憧れていたんだ。シュロム国の冒険者協会で冒険者登録をして、冒険者になりたいんだ」
「それはとってもいい考えだね?ねぇ僕たちも一緒に行っていい?」
「えっ!フィンとブランもついてきてくれるの?嬉しいなぁ」

 フィンは無邪気に喜んでいるユリスが心配で仕方なかった。ユリスはこれまでシュロム国王に大切に育てられていた王子さまだ。この世の中には悪い人間が沢山いる、純粋なユリスはすぐにだまされてしまうのではないだろうか。

 フィンたちはシュロム国の城下町にある冒険者協会に向かった。冒険者協会はとても立派な建物だった。

 ユリスは無事に書類を提出して冒険者になった。ユリスは始終楽しそうで、フィンはますます心配になった。

 ユリスは市場で買い食いをしたいと言い出した。王子であった時は許されない事だったらしい。フィンたちは屋台がある所までやって来た。ユリスはチョコマカと動き回るので、フィンはブランを抱っこしてユリスの手をつないでいた。ユリスが迷子にならないためだ。ユリスは一つの屋台に止まった。牛肉串を焼いている屋台だ。

 ユリスはこれがいいと言う。フィンはユリスが小銭を持っていないと思い、買ってあげようとした。だがユリスはポケットをゴソゴソして何かを店主に渡した。受け取った店主が驚いた顔になった。

 ユリスが手渡したのは金貨だった。屋台の牛肉串を買うには高額すぎる。店主が困っていると、ユリスは足りないと思ったのか、ポケットから二枚の金貨を取り出して渡そうとした。フィンは見かねて店主に値段を聞いた。店主が銅貨三枚というので、銅貨六枚を出して二本の牛肉串を買って屋台を後にした。

 フィンはユリスと広場のベンチに座り牛肉串を食べた。牛肉串はとても美味しかったが、フィンはとても疲れてしまった。

 ユリスは王子さまのため平民の常識がまるで通用しないのだ。ユリスはやっと牛肉串を食べ終えてフィンに聞いた。

「ねぇ、フィン。さっき屋台に払った黒い硬貨は何?お金なの?」

 フィンはがく然とした。やはりユリスは銅貨を見た事がなかったのだ。フィンはため息をついてリュックサックから小さな麻袋を取り出しベンチの上に置いた。麻袋から金貨と銀貨と銅貨を出して並べて言った。

「ユリス。お金は金貨だけじゃないんだ。銀貨も銅貨もあるんだよ?」
「へぇ。初めて見た」

 ユリスは不思議そうに銀貨と銅貨をつまんで見ていた。シュロム国とレムーリア国は昔から国交が盛んだったので、貨幣は共通だ。フィンはユリスにお金の説明をした。ユリスは物分かりの良い生徒よろしくふんふんと聞いている。フィンはユリスに聞いた。

「ユリス、お金はどれくらい持っているの?」

 ユリスはうなずくと、隠しの魔法を解除した。ユリスの足元に、金貨がぎっしり詰まった宝箱が出現した。フィンは声にならない悲鳴をあげて、すぐに隠しの魔法で隠してと叫んだ。ユリスは何故フィンが出せと言ったり隠せと言うのかわからないようだったが、その通りにしてくれた。フィンはぐったりしながら言った。

「すごい金貨だね?ユリス」
「うん。僕が小さい頃からおこずかいを貯めたお金と、レオンス兄上と父上がくれたお金だよ?」

 どうやらユリスは兄と父親にとても大事にされているようだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

処理中です...