上 下
219 / 298

商品の娘たち

しおりを挟む
 ギリムはリリーを抱き上げたまま、一つの部屋の前に立った。リリーを片手で支えながら、ポケットから取り出したカギで部屋のドアを開けた。ギギッと重いドアの開く音と共に、娘たちの悲鳴が聞こえた。ギリムが連れて来た娘たちだ。この部屋には娘が八人いる。ギリムはニヤニヤしながら娘たちに言った。

「おい、新入りだ。せいぜい仲良くするんだな」

 娘たちは悲壮な顔をしながら、息を殺してギリムの動作を見ていた。ギリムは手近なソファにリリーを寝かせてから部屋にカギをかけ直した。

 ギリムがブルグの部屋に戻ると、ブルグが機嫌良さそうにギリムに言った。

「あの娘、リリーと言ったか。ずいぶんと育ちの良い娘のようだな」
「はい。冒険者になる前はしかるべき所の令嬢かと。リリーは貴族相手の高級娼館に売ってはどうでしょうか?」
「うむ。これはいい拾い物をした」

 ギリムとブルグが機嫌良く皮算用をしていると、突然爆発音が屋敷内に鳴り響いた。ギリムが慌てて部屋の外に飛び出すと、そこには先ほど部屋に閉じ込めたはずのリリーが立っていた。リリーは笑顔でギリムに言った。

「ごきげんようギリムさん。これからここにいる女性たちを連れて行きますね?」
「リ、リリー、貴様何者だ!」
「私は冒険者です。でもアーチャーではありません。フレイヤ!」

 リリーが誰かを呼ぶ。リリーのとなりに突然、燃えるような赤い髪の美しい女性が出現した。ギリムはハッとした、この女は精霊か。ならばリリーは召喚士だったのだ。リリーは厳しい声で言った。

「フレイヤ!あの男に攻撃魔法!」

 フレイヤと呼ばれた美しい精霊は、ギロリとギリムをにらみ、人差し指をギリムに向けた。すると指先から火魔法がほとばしり、ギリムの腹に当たった。あまりの痛みにギリムは叫び声をあげた。

 このままでは焼き殺されてします。ギリムは尻で後じさりしながら必死に考えた。そしてある事に気がついた。先ほどリリーが書いた書類、ギリムが折りたたんでポケットに入れたのだ。ギリムはポケットから書類を取り出して叫んだ。

「おい!リリー。貴様はこの書類にサインした。この書類は一生俺たちの元で働くという書類だったんだぞ!この書類がある以上貴様は俺たちのモノなのだぞ!」

 すごむギリムに対してリリーはにこやかに答えた。

「あら、それは困りました。ではその書類を証拠隠滅してしまえばいいですね」

 リリーは何も持っていなかった両手に、弓矢を出現させた。リリーが弓に矢をつがえる。だが矢には矢じりがついていなかった。リリーが矢を放つと、驚いた事に矢じり部分に火が灯った。

 火矢は一直線にギリムの手に持った書類に当たった。書類はアッという間に燃え尽きてしまった。ギリムは怒りのあまり叫んだ。

「きたないぞ!書類を燃やすなんて反則だ!」
「きたないですって?何の非もない女の人たちに借金を背負わせて、娼館で働かせている人に言われたくないわ。もうすぐこの屋敷に騎士団がやって来ます」

 リリーの言葉にギリムはヒッと悲鳴をあげた。早く逃げなければ、ギリムがきびすを返して走ろうとすると、炎の縄が身体に巻きつき、転倒してしまった。

 ギリムがモゾモゾとイモムシのように逃げようとすると、リリーがスタスタとギリムを追いこし行くてをふさいで言った。

「ギリムさん。貴方、女をなめすぎじゃない?私は冒険者、貴方たちを捕まえる依頼を受けた。依頼したのは貴方が小屋に閉じ込めていた女の人たちよ」

 ギリムはがく然とした。小屋に閉じ込めた娘たちは震えて泣いていた。小屋には脱出できる窓はなく、屋根に灯りとりの天窓があるだけのはずた。だが娘たちは逃げ出し、冒険者に依頼をしてギリムを捕まえにやってきた。

 ギリムの運は尽きたのだ。ギリムはガクリとうなだれた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

うちのメイドがウザかわいい! 転生特典ステータスがチートじゃなくて【新偉人(ニート)】だったので最強の引きこもりスローライフを目指します。

田中ケケ
ファンタジー
 ニート生活を送っていた俺、石川誠道は、バスガス爆発という早口言葉が死因で異世界に転生することになってしまう。  女神さまは転生特典として固有ステータス(しかもカンスト済み)とサポートアイテムを与えてくれたのだが、誠道が与えられた固有ステータスの名前は紆余曲折あって『新偉人(ニート)』に……って、は?  意味わかんないんだけど?  女神さまが明らかにふざけていることはわかりますけどね。  しかもサポートアイテムに至っては、俺の優雅で快適な引きこもり生活を支援してくれる美少女メイドときた。  うん、美少女っていうのは嬉しいけどさ、異世界での冒険を支援しないあたり、やっぱり絶対これ女神さまに「引きこもり乙w」ってからかわれてるよね?  これは、石川誠道がメイドのミライとともに異世界で最強の引きこもりを目指すお話。  ちなみに、美少女メイドのミライの他に、金の亡者系お姉さんや魔物を〇〇する系ロリっ子、反面教師系メンタリスト等も出てきます。  個性豊かなキャラクターたちが繰り広げる、引きこもり系異世界コメディ!!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...