217 / 298
女冒険者
しおりを挟む
ギリムは商品の娘リリーの姿をよく見た。彼女は動きやすい旅人の服を着て、大きなリュックサックを背負っていた。肩には弓矢をかけている。彼女は冒険者なのかもしれない。ギリムはリリーに聞いた。
「リリーさん。貴女は」
「はい、私は冒険者です。アーチャーをしています」
リリーは義理がたい娘のようで、ギリムに礼をしたいと言った。ギリムたちは食堂に入った。ギリムはリリーから昼食をごちそうになりながらリリーの話しを聞いた。
リリーはアーチャーのため、直接戦闘をするのではなく後方援護が多い。冒険者の依頼を受ける時は、大所帯で冒険者の依頼を受ける事が多いのだそうだ。
自身の能力が高い冒険者は一人で冒険者の依頼を受ける事が可能だが、自身の力が弱い冒険者は大人数で戦力を上げなければいけない。リリーもそんな冒険者の一人なのだそうだ。
ギリムは食事をするリリーの所作をつぶさに確認した。リリーの出自はとてもいい所の娘のようだ。これはいい、ギリムはほくそえんだ。美しい娘を誘拐して娼館に売るにしても、客に出す前にマナーや礼儀作法を教えるのが一苦労なのだ。
リリーはそんな心配はなさそうだ。優雅な所作、ていねいな言葉遣い。これなら貴族相手の高級娼婦も夢ではない。ギリムはリリーに猫撫で声で話しかけた。
「リリーさんが冒険者だと聞いて、貴女におりいってお願いしたい事があるのですが」
「何でしょうか?私にできる事なら」
しめた、ギリムは直感した。ギリムは冒険者には二種類いると考えている。一つは金のために冒険者になる者。もう一つは困っている人を助けるために冒険者になる者。リリーはおそらく後者だ。
ギリムはここでは依頼内容は言えないとはぐらかし、リリーをある屋敷まで連れて来た。この屋敷の主人は、表向きは裕福な商人だ。だが実態は娘を誘拐し、娼館に娘を売る大元締めなのだ。
リリーは豪華な屋敷を見て驚いた声をあげた。
「ずいぶんと立派なお屋敷ですね?このようなお屋敷のご主人なら、私のようなレベルの低い冒険者を雇うよりも、もっと優秀な冒険者を何人も雇う事ができるのではありませんか?」
「いいえリリーさん。貴女にしかできない事なのです」
ギリムは気後れしているリリーの背中を押すように屋敷の中に案内した。屋敷の廊下には、一定間隔に置かれた飾り台の上にツボや彫刻が陳列されていた。さながら私設美術館だ。
ギリムはリリーをうながし廊下を進んだ。大きなツボの置かれた飾り台の側まで来ると、ギリムはわざとリリーに体当たりした。か弱い女性のリリーはバランスを崩して飾り台にぶつかった。ガシャンとかん高い音がして、ツボがわれた。ギリムは大声で叫んだ。
「大変だ!旦那さまの大切にされているツボが!どうしよう金貨二十枚もする物なのに」
「まぁ!それは大変。どうしましょう」
リリーはその場にしゃがみこんでバラバラになったツボのカケラを持ち上げた。ギリムはニヤリと笑った。ギリムは商品と定めた娘に大きな借金を背負わせてどうにもこうにもならなくなった後、娘が自分自身を身売りして借金を返すようしむけるのだ。
これでリリーはギリムの罠にはまったのだ。リリーはまるで困っている様子もなく、ギリムにふり返り笑顔で言った。
「ギリムさん、どこかツボが壊れてないか確認してください」
リリーは両手に、先ほど粉々にわれたはずのツボをかかえていた。そんなはずは無い。ギリムは確かにこの目で見たのだ。ギリムはリリーからツボをひったくるように奪うと、目を近づけてつぎ目を探した。だが、ツボはわれていなかった。
ギリムが叫びそうになると、手からつるりとツボが落ちた。ガチャンという音と共にツボがわれた。リリーは驚いた声で言った。
「大変!金貨二十枚のツボが」
ギリムは放心して答えた。
「いいえ。このツボは銀貨三枚の安物でした」
「リリーさん。貴女は」
「はい、私は冒険者です。アーチャーをしています」
リリーは義理がたい娘のようで、ギリムに礼をしたいと言った。ギリムたちは食堂に入った。ギリムはリリーから昼食をごちそうになりながらリリーの話しを聞いた。
リリーはアーチャーのため、直接戦闘をするのではなく後方援護が多い。冒険者の依頼を受ける時は、大所帯で冒険者の依頼を受ける事が多いのだそうだ。
自身の能力が高い冒険者は一人で冒険者の依頼を受ける事が可能だが、自身の力が弱い冒険者は大人数で戦力を上げなければいけない。リリーもそんな冒険者の一人なのだそうだ。
ギリムは食事をするリリーの所作をつぶさに確認した。リリーの出自はとてもいい所の娘のようだ。これはいい、ギリムはほくそえんだ。美しい娘を誘拐して娼館に売るにしても、客に出す前にマナーや礼儀作法を教えるのが一苦労なのだ。
リリーはそんな心配はなさそうだ。優雅な所作、ていねいな言葉遣い。これなら貴族相手の高級娼婦も夢ではない。ギリムはリリーに猫撫で声で話しかけた。
「リリーさんが冒険者だと聞いて、貴女におりいってお願いしたい事があるのですが」
「何でしょうか?私にできる事なら」
しめた、ギリムは直感した。ギリムは冒険者には二種類いると考えている。一つは金のために冒険者になる者。もう一つは困っている人を助けるために冒険者になる者。リリーはおそらく後者だ。
ギリムはここでは依頼内容は言えないとはぐらかし、リリーをある屋敷まで連れて来た。この屋敷の主人は、表向きは裕福な商人だ。だが実態は娘を誘拐し、娼館に娘を売る大元締めなのだ。
リリーは豪華な屋敷を見て驚いた声をあげた。
「ずいぶんと立派なお屋敷ですね?このようなお屋敷のご主人なら、私のようなレベルの低い冒険者を雇うよりも、もっと優秀な冒険者を何人も雇う事ができるのではありませんか?」
「いいえリリーさん。貴女にしかできない事なのです」
ギリムは気後れしているリリーの背中を押すように屋敷の中に案内した。屋敷の廊下には、一定間隔に置かれた飾り台の上にツボや彫刻が陳列されていた。さながら私設美術館だ。
ギリムはリリーをうながし廊下を進んだ。大きなツボの置かれた飾り台の側まで来ると、ギリムはわざとリリーに体当たりした。か弱い女性のリリーはバランスを崩して飾り台にぶつかった。ガシャンとかん高い音がして、ツボがわれた。ギリムは大声で叫んだ。
「大変だ!旦那さまの大切にされているツボが!どうしよう金貨二十枚もする物なのに」
「まぁ!それは大変。どうしましょう」
リリーはその場にしゃがみこんでバラバラになったツボのカケラを持ち上げた。ギリムはニヤリと笑った。ギリムは商品と定めた娘に大きな借金を背負わせてどうにもこうにもならなくなった後、娘が自分自身を身売りして借金を返すようしむけるのだ。
これでリリーはギリムの罠にはまったのだ。リリーはまるで困っている様子もなく、ギリムにふり返り笑顔で言った。
「ギリムさん、どこかツボが壊れてないか確認してください」
リリーは両手に、先ほど粉々にわれたはずのツボをかかえていた。そんなはずは無い。ギリムは確かにこの目で見たのだ。ギリムはリリーからツボをひったくるように奪うと、目を近づけてつぎ目を探した。だが、ツボはわれていなかった。
ギリムが叫びそうになると、手からつるりとツボが落ちた。ガチャンという音と共にツボがわれた。リリーは驚いた声で言った。
「大変!金貨二十枚のツボが」
ギリムは放心して答えた。
「いいえ。このツボは銀貨三枚の安物でした」
0
お気に入りに追加
770
あなたにおすすめの小説
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
侯爵夫人は子育て要員でした。
シンさん
ファンタジー
継母にいじめられる伯爵令嬢ルーナは、初恋のトーマ・ラッセンにプロポーズされて結婚した。
楽しい暮らしがまっていると思ったのに、結婚した理由は愛人の妊娠と出産を私でごまかすため。
初恋も一瞬でさめたわ。
まぁ、伯爵邸にいるよりましだし、そのうち離縁すればすむ事だからいいけどね。
離縁するために子育てを頑張る夫人と、その夫との恋愛ストーリー。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜
ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。
同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。
そこでウィルが悩みに悩んだ結果――
自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。
この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。
【一話1000文字ほどで読めるようにしています】
召喚する話には、タイトルに☆が入っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる