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女冒険者

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 ギリムは商品の娘リリーの姿をよく見た。彼女は動きやすい旅人の服を着て、大きなリュックサックを背負っていた。肩には弓矢をかけている。彼女は冒険者なのかもしれない。ギリムはリリーに聞いた。

「リリーさん。貴女は」
「はい、私は冒険者です。アーチャーをしています」

 リリーは義理がたい娘のようで、ギリムに礼をしたいと言った。ギリムたちは食堂に入った。ギリムはリリーから昼食をごちそうになりながらリリーの話しを聞いた。

 リリーはアーチャーのため、直接戦闘をするのではなく後方援護が多い。冒険者の依頼を受ける時は、大所帯で冒険者の依頼を受ける事が多いのだそうだ。

 自身の能力が高い冒険者は一人で冒険者の依頼を受ける事が可能だが、自身の力が弱い冒険者は大人数で戦力を上げなければいけない。リリーもそんな冒険者の一人なのだそうだ。

 ギリムは食事をするリリーの所作をつぶさに確認した。リリーの出自はとてもいい所の娘のようだ。これはいい、ギリムはほくそえんだ。美しい娘を誘拐して娼館に売るにしても、客に出す前にマナーや礼儀作法を教えるのが一苦労なのだ。

 リリーはそんな心配はなさそうだ。優雅な所作、ていねいな言葉遣い。これなら貴族相手の高級娼婦も夢ではない。ギリムはリリーに猫撫で声で話しかけた。

「リリーさんが冒険者だと聞いて、貴女におりいってお願いしたい事があるのですが」
「何でしょうか?私にできる事なら」

 しめた、ギリムは直感した。ギリムは冒険者には二種類いると考えている。一つは金のために冒険者になる者。もう一つは困っている人を助けるために冒険者になる者。リリーはおそらく後者だ。

 ギリムはここでは依頼内容は言えないとはぐらかし、リリーをある屋敷まで連れて来た。この屋敷の主人は、表向きは裕福な商人だ。だが実態は娘を誘拐し、娼館に娘を売る大元締めなのだ。

 リリーは豪華な屋敷を見て驚いた声をあげた。

「ずいぶんと立派なお屋敷ですね?このようなお屋敷のご主人なら、私のようなレベルの低い冒険者を雇うよりも、もっと優秀な冒険者を何人も雇う事ができるのではありませんか?」
「いいえリリーさん。貴女にしかできない事なのです」

 ギリムは気後れしているリリーの背中を押すように屋敷の中に案内した。屋敷の廊下には、一定間隔に置かれた飾り台の上にツボや彫刻が陳列されていた。さながら私設美術館だ。

 ギリムはリリーをうながし廊下を進んだ。大きなツボの置かれた飾り台の側まで来ると、ギリムはわざとリリーに体当たりした。か弱い女性のリリーはバランスを崩して飾り台にぶつかった。ガシャンとかん高い音がして、ツボがわれた。ギリムは大声で叫んだ。

「大変だ!旦那さまの大切にされているツボが!どうしよう金貨二十枚もする物なのに」
「まぁ!それは大変。どうしましょう」

 リリーはその場にしゃがみこんでバラバラになったツボのカケラを持ち上げた。ギリムはニヤリと笑った。ギリムは商品と定めた娘に大きな借金を背負わせてどうにもこうにもならなくなった後、娘が自分自身を身売りして借金を返すようしむけるのだ。

 これでリリーはギリムの罠にはまったのだ。リリーはまるで困っている様子もなく、ギリムにふり返り笑顔で言った。

「ギリムさん、どこかツボが壊れてないか確認してください」

 リリーは両手に、先ほど粉々にわれたはずのツボをかかえていた。そんなはずは無い。ギリムは確かにこの目で見たのだ。ギリムはリリーからツボをひったくるように奪うと、目を近づけてつぎ目を探した。だが、ツボはわれていなかった。

 ギリムが叫びそうになると、手からつるりとツボが落ちた。ガチャンという音と共にツボがわれた。リリーは驚いた声で言った。

「大変!金貨二十枚のツボが」

 ギリムは放心して答えた。

「いいえ。このツボは銀貨三枚の安物でした」
 

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