216 / 298
ギリム
しおりを挟む
ギリムは内心はらわたが煮えくりかえりそうだった。大事な商品がなくなってしまったからだ。納期が迫っている、早く新たな商品を探し出さなければいけない。
ギリムは生まれついての悪党だと自負していた。生まれてこの方悪い事をしたと、後悔した事は一度もなかった。ギリムは常に人を騙して金を得ていた。騙した人間をあわれんだ事は一度もない。だまされる方が悪いのだ。
そろそろ仲間が商品に目をつけている頃だ。ギリムが街の市場をブラブラ歩いていると、若い女のかん高い声が聞こえた。
「ですから、先ほどから謝っているではありませんか」
「お嬢さん。謝って済む問題じゃないんだよ。かわいそうに弟がこんなに痛がっているじゃないか」
「ちょっとぶつかっただけでケガをするなんておかしいです!」
ギリムが市場の道の真ん中にできた人だかりをのぞくと、まさに仲間が商品を品定めしている所だった。ガラの悪い二人組が、美しい娘にいんねんをつけている。街の人々は、関わり合いになりたくないとみえる。だが事のなり行きが気になって、チラチラと男二人組と美しい娘を見ていた。
ギリムはやじ馬を押しのけて輪の中に入ると、明るい声で言った。
「アイリンここにいたのか。探したぞ?」
ギリムはさも美しい娘の身内であるかのように、困っている娘の肩を抱いて言った。
「私の姪があなた方に何か失礼をいたしましたでしょうか?」
「なに!お前の姪だと!この娘が俺にぶつかってケガをさせたのだ!」
「それは大変失礼をいたしました。ではこれから私が医者にご案内いたします。診療代は勿論お支払いさせていただきます」
男二人組は苦い顔をしてから、気をつけろよ。と叫んで行ってしまった。困っていた娘はホッと息をついてからギリムに言った。
「危ない所を助けていただきありがとうございました」
ギリムは娘に振り向くと柔和な笑顔で答えた。
「ええ、たいした事ありませんよ。お嬢さんが無事でようございました」
ギリムの武器は笑顔だ。この笑顔で娘はすぐに安心して心を開いてしまう。先ほど娘にいんねんをつけた二人組はギリムの仲間だ。いい商品を見つけると、いんねんをふっかける。それを、偶然通りかかったギリムが仲裁して娘の警戒心をとくのだ。
ギリムはぜげんだった。美しい娘をさらって、娼館に売るのだ。元手がかからず大金が稼げる、こんなうまい商売は他にない。
ギリムはあらためてしげしげと商品の娘を見てため息をついた。とても美しい娘だった。髪はカラスの濡れ羽のように黒く、瞳は黒曜石のように輝き、肌は雪のように白く、くちびるはバラのように赤くうるおっていた。これは上ものだ。
ギリムはつとめて優しく聞いた。
「お嬢さん、お名前は?」
「はい。リリーと申します」
ギリムは生まれついての悪党だと自負していた。生まれてこの方悪い事をしたと、後悔した事は一度もなかった。ギリムは常に人を騙して金を得ていた。騙した人間をあわれんだ事は一度もない。だまされる方が悪いのだ。
そろそろ仲間が商品に目をつけている頃だ。ギリムが街の市場をブラブラ歩いていると、若い女のかん高い声が聞こえた。
「ですから、先ほどから謝っているではありませんか」
「お嬢さん。謝って済む問題じゃないんだよ。かわいそうに弟がこんなに痛がっているじゃないか」
「ちょっとぶつかっただけでケガをするなんておかしいです!」
ギリムが市場の道の真ん中にできた人だかりをのぞくと、まさに仲間が商品を品定めしている所だった。ガラの悪い二人組が、美しい娘にいんねんをつけている。街の人々は、関わり合いになりたくないとみえる。だが事のなり行きが気になって、チラチラと男二人組と美しい娘を見ていた。
ギリムはやじ馬を押しのけて輪の中に入ると、明るい声で言った。
「アイリンここにいたのか。探したぞ?」
ギリムはさも美しい娘の身内であるかのように、困っている娘の肩を抱いて言った。
「私の姪があなた方に何か失礼をいたしましたでしょうか?」
「なに!お前の姪だと!この娘が俺にぶつかってケガをさせたのだ!」
「それは大変失礼をいたしました。ではこれから私が医者にご案内いたします。診療代は勿論お支払いさせていただきます」
男二人組は苦い顔をしてから、気をつけろよ。と叫んで行ってしまった。困っていた娘はホッと息をついてからギリムに言った。
「危ない所を助けていただきありがとうございました」
ギリムは娘に振り向くと柔和な笑顔で答えた。
「ええ、たいした事ありませんよ。お嬢さんが無事でようございました」
ギリムの武器は笑顔だ。この笑顔で娘はすぐに安心して心を開いてしまう。先ほど娘にいんねんをつけた二人組はギリムの仲間だ。いい商品を見つけると、いんねんをふっかける。それを、偶然通りかかったギリムが仲裁して娘の警戒心をとくのだ。
ギリムはぜげんだった。美しい娘をさらって、娼館に売るのだ。元手がかからず大金が稼げる、こんなうまい商売は他にない。
ギリムはあらためてしげしげと商品の娘を見てため息をついた。とても美しい娘だった。髪はカラスの濡れ羽のように黒く、瞳は黒曜石のように輝き、肌は雪のように白く、くちびるはバラのように赤くうるおっていた。これは上ものだ。
ギリムはつとめて優しく聞いた。
「お嬢さん、お名前は?」
「はい。リリーと申します」
0
お気に入りに追加
771
あなたにおすすめの小説
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる