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領主の最後
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フティの街の領主は恐怖に身を震わせて自室に閉じこもっていた。今日は何という散々な日だろうか。やっと貴族の側室にできそうだった娘のエメリンが逃げ出し、夜中には夜襲をかけられている。
窓の外では用心棒と悪漢どものどごうが飛び交っている。安くない金を払って雇っている用心棒だ。悪漢どもを皆殺しにしてもらわなければ割に合わない。
トントン、と領主の部屋をノックする音が聞こえた。領主が入室を許可すると、子供が入って来た。確か新しく雇ったフィンという用心棒だ。フィンの足元には白猫がいた。フィンは領主の座るソファの前まで来ると、一礼をして口を開いた。
「領主さまにご報告があります。エメリンお嬢さんを修道院に逃したのは僕です」
領主は一気に頭に血がのぼって叫んだ。
「何だと!ふざけた事をしおって!フィン、貴様はクビだ!金は払わんぞ、とっとと出て行け!」
「はい、お金はいりません。解雇の件うけたまわりました。では僕はこれで領主さまの用心棒ではなくなるわけですね」
フィンは用心棒の給金はいらないという。これはもうけた、と領主が思っていると、ガチャンッとするどい音が窓の方向からした。驚いた事に、弓矢が窓ガラスを割って室内に入って来たのだ。
領主は恐怖のあまり、ヒェェと悲鳴をあげた。だが不思議な事に弓矢は領主には当たらず、見えない何かに当たって床に落ちてしまった。領主は不思議に思い、見えない何かに触れた。それはヒヤリと冷たく、透明な鉱物のようだった。領主は思わずつぶやいた。
「これは一体なんじゃ?」
「これは霊獣ブランの鉱物防御魔法です」
領主の問いにフィンが答えた。驚いた事に、フィンが連れている白猫は霊獣だというのだ。霊獣とは高貴な生き物で、強力な魔力を有していると聞く。まれに人間と契約し、力を貸してくれる事がある。目の前小僧、フィンは召喚士だったのだ。
これはいい拾い物をした。フィン一人を雇っていれば、領主の安全は保証されたも同然だ。役立たずの用心棒を解雇してしまえばさらにいい。領主はいやらしい笑顔を浮かべて言った。
「フィン、わしに一生つかえるがよい」
「おかしいですね?領主さま。僕は貴方に解雇されたはずですが」
「気が変わったのだ。寛大なわしがお前を一生めしかかえてやる。どうだ嬉しいだろう?金はいくら欲しい?望む額をやるぞ?」
「いいえ。お金はいりません」
フィンの返答に、領主は小さく舌打ちをした。子供はこれだから嫌だ。無知でバカで、てんで会話にならない。金がいらないとすれば、女はどうだろう。そうだエメリンを連れ戻したらフィンにくれてやろう。フィンがエメリンを逃したのならば、エメリンに惚れているに違いない。領主は猫撫で声でフィンに言った。
「フィン、ならばエメリンをやろう。お前が気に入れば妻にやってもいいぞ?」
領主の言葉に、それまで無表情だったフィンが、怒気をはらんだ声で言った。
「エメリンお嬢さんは、貴方のモノなんかじゃない。エメリンお嬢さんの人生は、エメリンお嬢さんだけのものだ」
「何を言っておる。エメリンはわしの所有物だ。わしが金をはたいて育てたのだ。エメリンはわしの役に立たなければいけないのだ」
「領主さま、貴方はどこまで愚かなのですか。貴方は人間は替えがきくモノだと考えている。貴方はホーンさんがケガをすると容赦なく切り捨てた。貴方にとってホーンさんは、とりかえのきくモノでしかなかったようですね。ですがホーンさんの奥さんと子供さんにとっては、たった一人しかいないかけがえのない夫であり父なんです。そんな簡単な事もわからない貴方は領主たる資格はない!」
領主は怒りのあまりウウッとうめき声をあげた。領主は目の前の気に食わない子供をどうしてやろうかと考えていると、フィンが再び口を開いた。
「僕の霊獣は悪き人間の心が読めるのです。領主さま、貴方は偉大なる国王陛下に納める税金を横領していますね?」
領主はギクリとした。だが顔に出してはいけない。領主はおうようとした声で答えた。
「そのようなデタラメを。何か証拠でもあるのか?」
「はい。僕の霊獣は、金庫の中に証拠があると言っています」
領主は驚きのあまり飾り棚の扉で隠してある金庫に視線を向けてしまった。フィンは静かな声で言った。
「そこが金庫ですか。ブラン」
フィンの声と共に、霊獣が魔法を使った。白猫の霊獣の前に、沢山の金属の刃が出現した。その刃は、領主の金庫を破壊してしまった。領主がぼう然としていると、フィンは部屋の外にいる誰がを呼んだ。
領主の部屋に無断で大男が入って来た。確か用心棒の古株ベノーといったか。ベノーはズカズカと歩いて行き、破壊された金庫から帳簿を取り出した。帳簿をペラペラめくると、芝居がかった声で言った。
「おい、フィン大変だ。これは俺たちの税金を横領している証拠の帳簿じゃねぇか!」
フィンはベノーから帳簿を受け取って言った。
「領主さま、これは騎士団に提出します」
「勝手にするがよい」
領主は心の中でほくそ笑んだ。こんな事もあろうかと、フティの街の騎士団は金で買収してある。フィンがいくら証拠の裏帳簿を持って領主を訴えても取り合わないだろう。
フィンは初めて笑顔になって言った。
「領主さま。勘違いしないでくださいね?僕が訴え出るのは、貴方の息のかかったフティの騎士団ではありません。王都ドロアの騎士団長ランハートさまにです」
領主はがく然とした。王都の騎士団長ランハートといえば、カタブツでワイロのたぐいを嫌悪していると聞く。ランハートに裏帳簿を提出されれば領主は重罪にかせられるだろう。領主はガクリとその場にしゃがみこんだ。
窓の外では用心棒と悪漢どものどごうが飛び交っている。安くない金を払って雇っている用心棒だ。悪漢どもを皆殺しにしてもらわなければ割に合わない。
トントン、と領主の部屋をノックする音が聞こえた。領主が入室を許可すると、子供が入って来た。確か新しく雇ったフィンという用心棒だ。フィンの足元には白猫がいた。フィンは領主の座るソファの前まで来ると、一礼をして口を開いた。
「領主さまにご報告があります。エメリンお嬢さんを修道院に逃したのは僕です」
領主は一気に頭に血がのぼって叫んだ。
「何だと!ふざけた事をしおって!フィン、貴様はクビだ!金は払わんぞ、とっとと出て行け!」
「はい、お金はいりません。解雇の件うけたまわりました。では僕はこれで領主さまの用心棒ではなくなるわけですね」
フィンは用心棒の給金はいらないという。これはもうけた、と領主が思っていると、ガチャンッとするどい音が窓の方向からした。驚いた事に、弓矢が窓ガラスを割って室内に入って来たのだ。
領主は恐怖のあまり、ヒェェと悲鳴をあげた。だが不思議な事に弓矢は領主には当たらず、見えない何かに当たって床に落ちてしまった。領主は不思議に思い、見えない何かに触れた。それはヒヤリと冷たく、透明な鉱物のようだった。領主は思わずつぶやいた。
「これは一体なんじゃ?」
「これは霊獣ブランの鉱物防御魔法です」
領主の問いにフィンが答えた。驚いた事に、フィンが連れている白猫は霊獣だというのだ。霊獣とは高貴な生き物で、強力な魔力を有していると聞く。まれに人間と契約し、力を貸してくれる事がある。目の前小僧、フィンは召喚士だったのだ。
これはいい拾い物をした。フィン一人を雇っていれば、領主の安全は保証されたも同然だ。役立たずの用心棒を解雇してしまえばさらにいい。領主はいやらしい笑顔を浮かべて言った。
「フィン、わしに一生つかえるがよい」
「おかしいですね?領主さま。僕は貴方に解雇されたはずですが」
「気が変わったのだ。寛大なわしがお前を一生めしかかえてやる。どうだ嬉しいだろう?金はいくら欲しい?望む額をやるぞ?」
「いいえ。お金はいりません」
フィンの返答に、領主は小さく舌打ちをした。子供はこれだから嫌だ。無知でバカで、てんで会話にならない。金がいらないとすれば、女はどうだろう。そうだエメリンを連れ戻したらフィンにくれてやろう。フィンがエメリンを逃したのならば、エメリンに惚れているに違いない。領主は猫撫で声でフィンに言った。
「フィン、ならばエメリンをやろう。お前が気に入れば妻にやってもいいぞ?」
領主の言葉に、それまで無表情だったフィンが、怒気をはらんだ声で言った。
「エメリンお嬢さんは、貴方のモノなんかじゃない。エメリンお嬢さんの人生は、エメリンお嬢さんだけのものだ」
「何を言っておる。エメリンはわしの所有物だ。わしが金をはたいて育てたのだ。エメリンはわしの役に立たなければいけないのだ」
「領主さま、貴方はどこまで愚かなのですか。貴方は人間は替えがきくモノだと考えている。貴方はホーンさんがケガをすると容赦なく切り捨てた。貴方にとってホーンさんは、とりかえのきくモノでしかなかったようですね。ですがホーンさんの奥さんと子供さんにとっては、たった一人しかいないかけがえのない夫であり父なんです。そんな簡単な事もわからない貴方は領主たる資格はない!」
領主は怒りのあまりウウッとうめき声をあげた。領主は目の前の気に食わない子供をどうしてやろうかと考えていると、フィンが再び口を開いた。
「僕の霊獣は悪き人間の心が読めるのです。領主さま、貴方は偉大なる国王陛下に納める税金を横領していますね?」
領主はギクリとした。だが顔に出してはいけない。領主はおうようとした声で答えた。
「そのようなデタラメを。何か証拠でもあるのか?」
「はい。僕の霊獣は、金庫の中に証拠があると言っています」
領主は驚きのあまり飾り棚の扉で隠してある金庫に視線を向けてしまった。フィンは静かな声で言った。
「そこが金庫ですか。ブラン」
フィンの声と共に、霊獣が魔法を使った。白猫の霊獣の前に、沢山の金属の刃が出現した。その刃は、領主の金庫を破壊してしまった。領主がぼう然としていると、フィンは部屋の外にいる誰がを呼んだ。
領主の部屋に無断で大男が入って来た。確か用心棒の古株ベノーといったか。ベノーはズカズカと歩いて行き、破壊された金庫から帳簿を取り出した。帳簿をペラペラめくると、芝居がかった声で言った。
「おい、フィン大変だ。これは俺たちの税金を横領している証拠の帳簿じゃねぇか!」
フィンはベノーから帳簿を受け取って言った。
「領主さま、これは騎士団に提出します」
「勝手にするがよい」
領主は心の中でほくそ笑んだ。こんな事もあろうかと、フティの街の騎士団は金で買収してある。フィンがいくら証拠の裏帳簿を持って領主を訴えても取り合わないだろう。
フィンは初めて笑顔になって言った。
「領主さま。勘違いしないでくださいね?僕が訴え出るのは、貴方の息のかかったフティの騎士団ではありません。王都ドロアの騎士団長ランハートさまにです」
領主はがく然とした。王都の騎士団長ランハートといえば、カタブツでワイロのたぐいを嫌悪していると聞く。ランハートに裏帳簿を提出されれば領主は重罪にかせられるだろう。領主はガクリとその場にしゃがみこんだ。
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