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朝方の騒ぎ

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 フィンはブランの背に乗り、明け方頃領主の屋敷に戻った。フィンが屋敷の正門の側まで来ると、人だかりができていた。

 フィンは不思議に思いながら元に戻った白猫のブランを抱っこして屋敷の門に近づいた。怖そうな男三人がベノーと話しをしていた。男の一人がベノーに言った。

「どうしてもダメか?ベノー」
「ああ、すまない。俺たちが嘆願書を持って行っても、領主は見もせずに捨てるだろう」

 フィンが門を通ろうとすると、男たちがフィンを不思議そうに見た。何故猫を抱えた子供が領主の屋敷に入って行くのだろうかという顔だ。ベノーの後ろにいた巨漢のモノリがフィンに手招きする。フィンはモノリの後ろに立って、事の次第を見守った。

 男三人はうなだれた顔で帰って行った。ベノーはフィンに振り返ると、エメリンの事をせっついて質問した。フィンは笑顔で答えた。

「エメリンお嬢さんは無事にドミニクに会えました。安心してください。二人は安全な場所にいます。そこは、」

 フィンがジカの村の事を言おうとすると、ベノーは手でそれを制して言った。

「俺たちはエメリンお嬢さんの無事だけ知れればそれでいい。フィン、誰が聞いているかわからない。お嬢さんの居場所を言っちゃなんねぇ」
「エメリンお嬢さんの笑顔が見られなくなるのは寂しいが、お嬢さんが幸せならこんな嬉しい事はねぇ」

 ベノーの言葉にモノリも続く。ベノーたち用心棒は、心からエメリンの幸せを願っているのだ。フィンはベノーに聞いた。

「ベノーさん。屋敷の人たちはエメリンお嬢さんがいなくなった事に気づいた?」
「ああ。今朝メイドがお嬢さんを起こしに行って、部屋がもぬけのからで屋敷中大騒ぎよ」

 エメリンは屋敷を出る時、父に置き手紙を残した。手紙には、貴族の側室になるのがどうしても嫌な事。フティの街から山二つ越えたラザの町の修道院に入る事。連れ戻されるなら自害するとしたためていた。

 ベノーはおかしそうにフィンに言った。

「エメリンお嬢さんを連れ戻すのに、用心棒仲間が二人、馬に乗ってラザの町に向かってる。奴ら、さもしおらしそうにお嬢さんは必ず俺たちが連れ戻しますって行って出てったよ。お嬢さんは別な場所で無事でいるのを知ってるのによ」

 フティの街からラザの町まで行くのに、乗り合い馬車を四つ乗り継がなければいけない。馬で直接ラザの町まで行く方がはるかに早く着く。領主は用心棒たちの言葉をまに受けて安心している事だろう。

 フィンは先ほどの三人の事が気になってベノーに質問した。

「ベノーさん。さっきの三人の男の人たちは誰なんですか?」
「ああ、奴らはフティの街の代表だ。最後通告に来やがった」
「最後通告?」
「そうだ。ホーンが矢で射られた時はおどしだったんだ。おそらく今夜か明日の夜、領主の命を奪いにやって来る」
「!。フティの街の人たちが領主を殺すんですか?!」
「いいや。素人に屋敷の用心棒倒して領主を殺すなんて芸当できねぇよ。金さえ払えば何でもやる奴らに依頼したんだ。なぁ、フィン。お前はエメリンお嬢さんを逃した事でこのままいても領主に解雇されるだろう。お前はこのままここから逃げろ」

 フィンは驚いてベノーの顔を見た。ベノーは優しい笑顔をしていた。ベノーは、フィンを夜襲の場にいさせたくないのだろう。フィンはベノーにそこまで心配してもらって、嬉しくて泣きそうになった。フィンは強い口調で言った。

「エメリンお嬢さんを逃した事、まだ領主が気づいていなければ僕は解雇されない。僕も皆とこの屋敷を守る。それに、領主は不正をしているんです。街の人たちから徴収した税金の横領です。証拠が見つかれば、領主を騎士団に突き出す事ができます!」

 フィンの強い決意に、ベノーはため息をついて言った。

「それならフィン。お前夜まで寝ておけ。夜襲が来たら叩き起こすからな!」
「はい!」

 ベノーはフィンがこのままいる事を許してくれたのだ。


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