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フィンの患者

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 フィンはベノーとエメリンを見て言った。

「ベノーさん、エメリンお嬢さん。ホーンさんの治療を僕にさせてくれませんか?僕は薬師の先生から薬草の知識と、患者さんの治療方法を学んだんです」

 フィンの言葉にベノーとエメリンはハッとした顔になった。エメリンが叫ぶように言った。

「お願い、フィン。ホーンさんを助けて!」
「おい、フィン。俺は何をしたらいい?」

 フィンはエメリンには、しゃふつしたお湯と清潔な布を頼んだ。ベノーには、以前ブランに作ってもらった干した薬草を煎じてもらう。

 フィンは先ずホーンの包帯を解いて傷口を確認した。ベノーの言った通り、傷口は膿んで悪臭がした。フィンはエメリンが持ってきてくれたお湯をかけ、膿を洗い落とした。傷口には、ブランが土魔法で作ってくれたドクダミをすりつぶして傷口にぬり、布をあてて包帯をした。

 ベノーが煎じてくれた薬湯をホーンに飲ませる事にする。寝たまま薬を飲ませようとすると、誤えんしかねないので、ベノーにホーンの身体を支えてもらって、薬湯を飲ませた。

 薬湯を飲ませ終えると、冷たい水でしぼった布で、ホーンのひたいと脇の下を冷やした。

 どれほど時間が経ったのだろうか。ベノーは疲労からか、床に座ったまま船をこいでいた。エメリンも疲れたようにベッドにもたれかかっていた。

 フィンはエメリンのような令嬢が、一用心棒であるホーンのために何故ここまでしてくれるのか不思議に思って質問した。

「エメリンお嬢さん。貴女は何故ホーンさんのためにここまでしてくれるんですか?」

 フィンの質問に、エメリンは悲しげな笑顔で答えた。

「もちろんホーンさんが私の住んでいる屋敷を守ってくださっているからというのもあるわ。でも、それだけじゃないの。私の行いは贖罪なの」
「・・・。贖罪?」
「ええ。私には血のつながらない母と兄がいたの。住み込みで働いてくれる使用人の母子だったわ。私は小さい頃に母を病気で亡くしていたから、その人が私のお母さんのようだった。その母子と過ごす時間は、私にとってかけがえのない時間だった。だけど、」

 そこでエメリンの顔は泣きそうにこわばった。エメリンはコクリとツバを飲み込んで話しを続けた。

「ある時母親が病気になったの。私はお父さまにお医者に見せてと泣きながら頼んだわ。だけどお父さまはあろう事か、その母子を屋敷から追い出してしまったの。私は風のうわさで母親が亡くなった事を知ったわ。子供は一人ぼっちで生きなければいけなくなった」

 フィンはエメリンに言った。

「死んでしまった母親って、ドミニクのお母さん?」

 フィンの言葉にエメリンはギクリと身体をこわばらせた。エメリンはフィンに言った。

「フィンはドミニクに会ったの?」
「はい。武闘大会に出場していました」
「ドミニクは、きっと私を怨んでるわ。お母さんを見殺しにしたんだもの」
「そんな事ないです!」

 フィンの大声にエメリンはびっくりした顔になった。フィンは言葉を続けた。

「ドミニクはとても強くて思いやりのある人です。僕思うんです。ドミニクが毎回武闘大会に参加するのは、エメリンお嬢さんに気づいてほしいからじゃないかって」

 エメリンは美しい大きな瞳からポロポロと涙を流し、ありがとうと言った。
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