上 下
185 / 298

ライオンの霊獣

しおりを挟む
「ひどい」

 フィンは思わず呟いた。ロノリたちの所業は、決して許されるものではない。おそらくロノリが生きていると知れば、ライオンの霊獣は再びロノリの命を狙うだろう。いくら最低な人間でも、最後の生き残りのロノリを守らなければいけない。フィンはロノリに言った。

「ロノリさん。貴方たちのやった事は、僕は許す事ができません。ですが霊獣が人を傷つける事も止めなければいけない。ロノリさん、貴方にはライオンの霊獣をおびきよせるための囮になってもらいます」

 フィンの提案にロノリは叫んだ。

「そんな事できるわけないだろう!俺は絶対ごめんだぜ!」
「それなら、これからずっとライオンの霊獣の恐怖におびえて生きるのを選びますか?」

 ロノリはううむと唸って黙った。


 ロノリは夜の町を歩いていた。ロノリは物音一つしても、ビクリと身体を震わせた。何故ならロノリは恐ろしい化け物に命を狙われているからだ。

 暗闇の中から、いつライオンの化け物が襲いかかってくるかわからない。ロノリの後ろを何かがつけている。ヒタリヒタリ、足音がする。動物の足音、その足音はしばらくすると聞こえなくなった。ロノリはホッと安どのため息をついた。

 そこでロノリはハッとした。ライオンの化け物は背中に翼が生えていた。ロノリが慌てて正面を振り向くと、そこには巨大なライオンがいた。ロノリはヒィッと小さく悲鳴をあげ、その場にしゃがみこんだ。


 フィンたちはロノリにライオンの霊獣が接触するのを、ひたすら待っていた。ロノリが小道に入ったのを確認すると、大きくなったブランの背中に乗ったフィンとリリーは、音もなく屋根の上に飛び乗った。

 フィンたちは屋根の上で、息を殺しながらロノリを見ていた。すると、ロノリの後をつけている大型動物がいた。その動物はフワリと飛び上がり、ロノリの目の前に立ちはだかった。フィンとリリーはブランの背中に飛び乗ると、屋根から飛び降りた。

「やめてください!ライオンの霊獣よ!」

 ライオンの霊獣は、突然現れたフィンたちに驚いた様子だった。フィンは声をやわらげて言った。

「ライオンの霊獣よ、もうやめてください。あなただって、もうこんな事やりたくないんでしょ?」
『頼む。これだけはやり遂げさせてくれ。この人間だけは許せないのだ!』
「この人間が、あなたの大切な村を襲ったからですか?」
『ああ。私があの村にこだわらなければ、オルトの村はあんな事にはならなかったのだ。私のせいで、多くの村人が死んでしまった。私は村を襲った人間たちがどうしても許せない!だからその人間だけは殺させてくれ』

 フィンはライオンの霊獣の悲痛な叫びを聞いた。霊獣とはとても慈悲深い生き物だ。その霊獣が悲しみのあまり人間を殺そうとしている。フィンはどうしてもこの霊獣を止めたかった。突然、小さな子供の声がした。

「イグニート!早くこの人間を殺して!」

 フィンはそこで初めて、ライオンの霊獣の背中に小さな少女が乗っている事に気がついた。少女はライオンの背中から飛び降りてから、フィンに向かって叫んだ。

「あなたたち!私とイグニートの邪魔をしないで!」
「君は?ライオンの霊獣の契約者なの?」
「ええ!私とイグニートは一心同体。村の皆のかたきをうつの!」

 フィンは驚いてしまった。人間と霊獣や精霊が契約する場合、人間はある程度成長しなければならない。肉体的にも、精神的にも。しかしこの少女は見たところ十三歳くらいではないだろうか。ライオンの霊獣の判断はよくなかったのではないか、フィンは疑問に思ってしまった。






 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

処理中です...