ひよっこ召喚師モフモフの霊獣に溺愛される

バレット対ユリス

　フィンは防御ドームの中にいる、バレットとユリスの戦いを固唾をのんで見守った。フィンは、ユリスと出会って間もないが、おそらくバレットとの力の差は歴然だろう。

　きっとユリスはバレットにコテンパンに倒されてしまうに違いない。だがユリスは王子さまだ。もしバレットがユリスを倒したなら、バレットは王子を傷つけた罪で罰を受けてしまうのではないだろうか。

　ユリスは両手から炎魔法を作り出し、バレットに投げつけた。バレットは風防御魔法でそれを防いだ。バレットは風魔法を作り出し、ユリスに放った。ユリスは炎防御魔法でそれを無効化した。

　目の前の戦いに、フィンは驚いてしまった。フィンはユリスがすぐに負けてしまうと思っていた。だがユリスはバレットと同等に魔法で戦っていた。しかも大きな防御ドームを張ったままだ。ユリスはとても強い魔法使いなのかもしれない。

　だがのんびりこの戦いを見ているわけにはいかない。フィンは足元にいてくれるブランに言った。

「ブラン。あの防御ドームに穴を開ける事できる？」
『ええ。一瞬だったらできるわ』
「じゃあ僕の合図で、防御ドームに僕の入れる穴を作ってくれる？」
『いいけど、一体何をするの？フィン』

　フィンはそれまで自分が身につけていたエメラルドのペンダントを外し、手に持っていた魔法具のペンダントをつけながら言った。

「何って、二人の戦いを止めるんだよ」
『止めるって。危ないわ、フィン！』
「僕は大丈夫だよ。ブラン、お願い」

　ブランは姿隠しの魔法を解いて、フィンの前に現れた。とても心配そうな顔をしていた。だがフィンは安心させるように笑ってうなずいた。


　ユリスは内心焦っていた。フィンの婚約者であるバレットはとても強い魔法使いだった。それに、とユリスは考える。どうやらバレットはユリスに手加減してくれているらしい。

　このままではユリスの魔力が尽きて勝負がついてしまう。どうすればいいだろうか。バレットは見た目が乱暴者だが本当はいい人間なのかもしれない。ユリスはフィンを諦めて、バレットに託した方がいいのだろうか。

　ユリスはまとまらない思考で目の前の相手に攻撃魔法を放ち続けた。だが突然、目の前に鮮やかなグリーンが現れた。遅れて、そのグリーンがフィンだという事に気がついた。

　ユリスは慌てて魔法を押さえようとしたが、間に合わなかった。ユリスが作り出した炎攻撃魔法がフィンに当たってしまった。

「フィン！」

　ユリスは焦って叫んだ。だが驚いた事に、フィンは強力な攻撃炎魔法に当たっても、無傷だったのだ。フィンはユリスに笑って言った。

「ユリスはすごいね。こんなすごい攻撃魔法が使えるんだもの」
「フィン、大丈夫なの？」
「うん。バレットがくれたこのペンダントは、風の霊獣の防御魔法が込められているんだ」

　ユリスはホウッと安どのため息をついた。大切なフィンを殺してしまったかと思ったからだ。だがそれまで単調に攻撃魔法を返すだけだったバレットが、怒りの形相でユリスに掴みかかろうとしてきた。

「フィン！無事か？！テメェ下手に出てりゃあフィンに攻撃しやがって！ぶっ殺す！」

　ユリスはそこで焦った。ユリスは魔法なら少しは自信を持っていたが、体力はまるで無かったからだ。バレットは怒りのあまりユリスに殴りかかろうとしている。フィンはバレットのこぶしに掴みかかり、バレットの動きを止めようとする。

「やめてバレット！」
「のいてろフィン！こいつはお前を攻撃したんだぞ？！」
「僕が二人の間に入ったんだ。ユリスは悪くないよ！」

　ユリスが立ち尽くしていると、今度はバレットとフィンの戦いが始まってしまった。バレットはフィンを傷つけたくないようで、受け手一辺倒だが、フィンは目にも止まらない速さでバレットにこぶしとケリを入れていく。

　フィンはグリーンのドレスを着ているので、ドレスのフリルが開いて、まるで花が開いたような美しさだ。ユリスはぼう然と、フィンとバレットの手合わせを見ていた。

　何度目かの攻防の末、フィンがドレスのフリルに足をからめて転倒しそうになった。それを見たユリスはアッと声をあげた。バレットは倒れそうなフィンを受け止めようと、支えようとした。だがフィンは右足を踏み込んで転倒を回避し、左足を軸にして後ろ回し蹴りを放った。

　フィンのケリはバレットの腹に決まり、バレットは吹っ飛んでしまった。