ひよっこ召喚師モフモフの霊獣に溺愛される

依頼完了

　これからどうしよう、とバネッサは思った。領主の屋敷まで行くのに、アレックスのコツメカワウソが大きくなって乗せてくれた。だがこの場には沢山の娘たちがいるのだ。この人数はいくらなんでも運べないだろう。

　するとフィンの白猫が、大きな荷馬車を二台、魔法で作ってくれた。バネッサたちが荷馬車に乗り込むと、白猫とコツメカワウソが大きくなって荷馬車を引いてくれた。

　バネッサたちは夕日が落ちる頃、ようやくグラブの町に帰りついた。バネッサは町長に話して、娘たちの面倒を頼んだ。

　バネッサは、アレックスたちに、今日はバネッサの家に泊まっていってもらいたいと考えていた。だが、アレックスたちは騎士団に連れて行かれた領主の使用人たちが心配だから、この足で騎士団に向かうようだ。

　バネッサはがっかりしてしまった。アレックスたちにちゃんとお礼が言いたかったのに。バレットの側には、いつの間にか翼の生えた黒ヒョウがいて、バレットたちは大きくなった黒ヒョウにまたがった。バネッサは妹を救ってくれた三人の冒険者に心から礼を言った。

「アレックス、バレット、フィン。クララを助けてくれてありがとう」

　アレックスは笑顔で別れの言葉を言ってくれた。バレットはぶっきらぼうだった。フィンはクララとも楽しそうに会話していた。

　大きな黒ヒョウが夕日の空に飛び立ち見えなくなるまで、バネッサとクララは見送っていた。クララは、行っちゃった。と小さくつぶやいてから、バネッサに振り向いて言った。

「ねぇ、お姉ちゃん。バレットってカッコいいね！」

　バネッサは心の中でため息をついた。姉妹だけに、男の好みが似ている。バネッサは苦笑しながら答えた。

「クララは見る目がないわねぇ。恋人にするならバレットじゃなくてアレックスみたいな男にしなさい」
「ええ！アレックスって、あのおじさん？だってあのおじさん、おばさんたちとお話してただけじゃん」

　バネッサはアレックスと世話係の女性たちの会話を思い出していた。世話係の女性たちは、娘たちを殺す手伝いをしてしまった事をとても後悔しているようだ。死んでわびたいと泣いていた。そんな彼女たちに、アレックスは優しい声でさとしていた。

　貴女たちは女領主に脅かされて仕方なくしたがっただけだ。だから、死んでしまった娘たちの事をすまないと思うなら、貴女たちは生きて償わなければいけない。

　アレックスは他の使用人たちにも声をかけ、はげましていた。騎士団に行きたいと言ったのも、どうやらアレックスのようだ。

　アレックスはおおらかでとても心の優しい人だった。聞けばまだ二十代なのだそうだ。バネッサはてっきり自分と同じ三十代かと思っていた。

　クララにはアレックスの良さがわからないようで、ふうんとだけ返ってきた。クララは、またひとり言のように話し出した。

「ああ、いいなぁフィンは」
「どうして？」
「だって。きっとバレットとフィンは恋人同士なのよ。私たちがバレットを見てキャアキャア言ってても、バレット私たちの事てんで無視だし。一目散にフィンの所に走って来て、大丈夫か？ケガはしてないか？って、それはもうフィンの事大事にしてたんだもん」

　クララの勘違いに、バネッサは笑って答えた。

「そんなはずないわ。だってフィンは男の子だもの」
「え？！あんなに可愛いのに？！」
「ええ。貴女たちを助けるために、フィンがおとりになって屋敷の中に入ったのよ。それにね、バレットとフィンは兄弟なのよ」
「兄弟？バレットとフィンは目の色も髪の色も違うじゃない」
「そうね、血はつながってないみたい。だけど、心がつながっている」

　バネッサはクララの手を握った。クララもバネッサの手を握り返してくれた。バネッサはクララと共に、自分たちの両親の思い出の店に帰って行った。