ひよっこ召喚師モフモフの霊獣に溺愛される

バレット対女領主

　バレットの放った風魔法の弾丸は女領主に命中し、女領主の身体には風穴が空いた。だが女領主は魔物の力を得ているのでこんな事では死なない。女領主は憎々しげにバレットをにらみつけて言った。

「おろかな人間の分際で、よくも私の美しい身体に傷をつけてくれたな。殺すだけでは飽き足らぬ、地獄の苦しみを味あわせてやろう」
「へっ、お前の気配は魔物もどきだ。見たところ魔物になりたてってとこだな。そんな相手、俺の敵じゃないぜ！」

　バレットはそうは言ったものの、女領主がどうやって娘の身体を傷つけず、命をうばった手段がわからない以上うかつに近づく事はしたくなかった。

　女領主はものすごい再生能力で身体中の風穴をふさいだ。そして女領主の形態がドンドン変化していった。女領主の胴体がグングン伸びていくのだ。あれよあれよという間に、女領主の頭が高い天井についてしまいそうだった。

　女領主は胴体がヘビのような姿になった。女領主は自身の姿を見下ろしてから、うっとりしたようにほうっと息をはいて言った。

「美しい。私はやはり美の化身なのだ」

　バレットはぼう然と女領主を見上げたが、気を取り直して腰にさげている剣を抜き、構えた。女領主はヘビのような下半身をいかして、ものすごい速さでバレットに襲いかかって来た。

　バレットはたぐいまれな反射神経でそれを回避した。だがこのままでは確実に捕まってしまう。バレットは自身の身体全体に風魔法をまとわせる。こうすればバレットの身体速度は大幅に向上するのだ。

　女領主はなおもしつようにバレットを捕らえようとする。もしかすると女領主が命を奪うには、相手に触れなければいけないのかもしれない。バレットは女領主を上回る速さでそれをよけた。バレットは女領主の攻撃をうかがいながら話しかけた。

「何故罪ものない若い娘の命を奪う？」

　バレットの言葉に、女領主は攻撃をやめ答えた。

「私の若さと美しさのための犠牲だ。娘たちも、私の身体の一部になれるのだ光栄な事だ」
「美しさだって？お前はちっとも美しくなんかない！外見の美しさはな、若さから来るものなんかじゃねぇんだよ！心の美しさのあらわれなんだよ。その人の心が美しければ、シワの一すじ、白髪の一本も美しく見えるんだよ。そんな事もわからないなんて、お前は大バカだ！」

　バレットは高速で動きながら、バレットに襲いかかって来た女領主の右腕を斬り落とした。女領主はケモノのような悲鳴をあげた。

　女領主は腕を斬られた痛みで、棒立ちになっていた。今この時を逃してはいけない。バレットは高く飛び上がると、女領主の胴体をけさがけに斬り裂いた。女領主の上半身はボトリと床に落ち、後を追うようにヘビの下半身も倒れた。

　女領主は、自分がバレットに斬られた事に気づいていないのか、びっくりしたような顔をしていた。バレットは憐れみの気持ちで女領主を見守っていた。

　女領主は小さな声でケイン、と呟いた。人の名前だ。もしかしたら女領主の大切な人の名前なのかもしれない。

　女領主は魔物だった。だが元人間の魔物だ。何故魔物の力を欲してしまい、どうやって魔物の力を得たのかはわからないが、人間として最期をむかえてほしいと思った。

　女領主の呼吸が止まった。すると、長かったヘビの身体はスルスルとちぢまり、元の人間の姿になった。バレットは魔法で女領主の身体をくっつけると、土魔法で豪華な棺を作り、女領主の遺体を入れた。