ひよっこ召喚師モフモフの霊獣に溺愛される

脱出

　バレットの作り出した風魔法のかたまりが一気に女領主にぶち当たった。女領主はケモノのような叫び声をあげた。

　フィンの契約霊獣ブランは、それまで自分が操っていた土人形の魔法を解くと、それまで動いていた土人形が元の土に戻った。

　女領主が攻撃を受けた途端、催眠魔法にかけられていた娘たちが意識を取り戻したようだ。娘たちは目の前で女領主とバレットの戦いを目の当たりにして悲鳴をあげて騒ぎ出した。このままでは集団パニックになってしまう。フィンは大声で叫んだ。

「静かに！」

　フィンの大声に娘たちはビクリとして静かになった。フィンは今度はゆっくりと落ち着いた声で話し出した。

「僕はフィン。皆を助けに来た冒険者です。僕たちが必ず君たちを助けます、だから落ち着いてください」

　娘たちはコクリとうなずいた。フィンは娘たちの落ち着きを見極めると、ブランに言った。

「ブラン。鉱物防御ドーム解除」
『ええ』

　ブランが防御ドームを解除すると十七人の娘たちは不安そうに身を寄せ合っていた。フィンは微笑んで行った。

「さぁ皆。逃げよう！」

　フィンがドアから廊下に出ると、何故か兵士が倒れていた。このまま放置すれば、バレットと領主の戦いに巻き込まれてしまう。フィンは兵士を肩に担ぎ上げながらブランに言った。

「ブラン。先ずはクララたちが隠れている衣装部屋に行こう」
『ええ』

　フィンは視線をブランから、不安そうにしている娘たちに向けて言った。

「さぁ皆。白猫のブランについて行って」

　娘たちはコクリとうなずくと、ブランを先頭に走り出した。フィンは逃げ遅れる娘がいないように後ろにつく。

　しばらく廊下を走ると、娘たちは急にブランの後ろではなく方向転換をして、別な廊下に駆け出した。フィンは慌てて娘たちの後を追うと、そこに世話係の女性に群がる娘たちがいた。皆口々に怖い、怖いと言って、まるで母親に助けを求める幼い子供たちのようだった。

　フィンは世話係の女性せっついて言った。

「おばさん、外には僕の仲間がいます。どうか女の子たちを外に逃すのを手伝ってください」

　世話係の女性は青ざめた顔で答えた。

「いいえ、私にはその資格はありません。私はここに残りますから、どうかこの子たちをよろしくお願いします」

　どうやら世話係の女性は、娘たちを殺す手伝いを無理矢理やらされていたようだ。女性は後悔の念にさいなまれているらしい。フィンは女性の目を見て言った。

「ここにいる女の子たちは皆貴女を信頼しています。どうか一緒に逃げてください」

　世話係の女性は泣きそうな顔になってから、覚悟を決めてうなずいた。そしておびえる娘たちに優しく言った。

「さぁ、ここから逃げましょう。私について来て」

　十七人の娘たちは世話係の女性について逃げ始めた。フィンはブランと衣装部屋にいるクララたちの元に行った。衣装部屋には衣装係の女性と、今日連れて来られたと思われる娘が三人いた。皆激しい爆発音におびえていた。フィンは衣装係の女性に言った。

「今僕の仲間が領主と戦っています。屋敷内にいては危険です。この屋敷で働いている人たちに避難するように伝えてくれませんか？」
　
　衣装係の女性はこわばった顔でうなずいてから衣装部屋を出て行った。フィンは事態が飲み込めないでいる三人の娘たちに言った。

「ここは危険だ、君たちも逃げよう。ブラン、クララたちの姿隠しの魔法解除」
『ええ』

　ブランが魔法を解除すると、部屋のすみで震えているクララたちが現れた。クララはフィンの姿を見ると青ざめた顔で駆け寄って来た。

「フィン！一体どうなってるの？」
「落ち着いてクララ。この屋敷の領主はは魔物だったんだ。今僕の仲間が領主と戦っている。早くここから逃げよう」

　クララは不安そうにうなずいた。フィンもうなずいてから、視線をブランに向けて言った。

「ブラン。鉱物魔法で部屋の壁を破壊して」
『ええ。わかったわ』

　ブランは沢山の鉄の刃を作り出し、壁にめがけて放った。