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屋敷におとずれた女

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 ボムは自身を根っからの悪人だと思っている。心の中の良心にさいなまれながらグズグズ生きているよりよっぽどいい。

 ボムは孤児だった。誰にも頼らず、盗みを続けながら生きてきた。成長するに従い、身長も伸びて力も強くなった。ボムは剣を振るい、自分の思い通りに毎日を生きていた。

 ボムは盗みや殺し何でもした。やがてハクがついてくると、ボムに仕事の依頼がくるようになった。ボムは金のためならどんな依頼も受けた。

 暴力、強盗、殺人。何でもこなした。そんなボムにある時大金の入る依頼がまわってきた。ある領主の用心棒の依頼だ。だが用心棒というのは表向きの依頼だ。本当の依頼内容は若く美しい娘をさらって来る事、そして死んだ娘の死体を処理する事だった。

 ボムは人の命を奪う事に何のちゅうちょもわかなかったが、ただ若い娘が死んでしまうのはもったいないと感じていた。屋敷に集められる娘たちは、どの娘も美しく若さにあふれていた。もう少し歳を重ねれば、ボムの好みに合う女に成長しただろう。

 女領主は美しい女だった。だがボムの感は、女領主に関わらない方が賢明だと告げていた。女領主が何故定期的に娘を屋敷に連れ込み、その後娘たちが死体になってしまうのかボムにはわからない。ボムは金がもらえれば何でもいいのだ。

 ボムは娘たちの死体処理の他に、本業の屋敷の警備もやっていた。用心棒はボムの他にも五人雇われていて、その五人が交代で警備にあたっていた。

 ボムがやる気もなくプラプラと屋敷の周りを歩いていると、背後から声をかけられた。ボムが振り向くと、声の主は女だった。それもとびきりの美しい女だった。ボムは思わずヒュウッと口笛を吹いた。

 女は長身で、ブロンドの髪にグリーンの瞳をしていた。女は不機嫌そうに眉間にシワをよせボムをにらんでいた。歳の頃は二十歳といったところか。生意気そうな所がたまらない。ボムは鼻っぱしらの強い女を暴力でしたがえる事が大好きなのだ。女は不機嫌そうにボムに言った。

「おい。俺を屋敷の中に連れて行け」
「領主さまの許可がなければ屋敷には入れないぜ?お嬢さん」
「屋敷の中に俺の弟がいる」

 弟ではなくて妹だろう。もしかするとこの女は外国人なのかもしれない。だから言葉の使い方がチグハグなのだろう。貧しい外国人が奴隷として売られるのはよくある事だ。おおかたこの女も妹を売られてしまったのだろう。

 きっとこの女も妹と一緒にこの屋敷の侍女として働きたいのだろう。だがこの女はどう見ても二十歳を過ぎている。領主の好みには合わない。それならボムが好きにしてもいいのではないだろうか。

 屋敷に入れると嘘をついて、空き部屋に連れ込んで乱暴してしまえばいい。ボムは我知らずに舌なめずりをしながら猫なで声で言った。

「ああ。妹さんに会いたいんだね?なら内緒で屋敷の中に入れてあげるよ」

 ボムは自分が出入りする、使用人専用の裏口に女を案内した。ボムは女を裏口から屋敷内に入れ、さてどの部屋に女を連れ込もうかとボムが思案していると、女はスタスタと前を歩いて行ってしまう。その速度が異様に早い。ボムは慌てて女の後を追いながら言った。

「おい。お嬢さん!あんまり歩き回らないでくれ。屋敷に部外者を入れたら俺が大目玉を食らっちまう」
 
 女はボムの言葉を無視し、ボムに言った。

「おい、女領主の部屋はどこだ」

 ボムは震え上がった。このままではボムが部外者を屋敷内に入れたのがわかってしまう。ボムはたまらず、女の腕を掴んで止めようとした。女の腕は細身だがしっかりと筋肉がついていた。そして、女よりも長身のボムが渾身の力で女を止めようとしているのに、女の動きは全く止まらない。

 ボムは引きづられる形でズルズルと廊下を進んでいった。女が廊下の角を曲がろうとする。このままでは女領主の部屋に到着してしまう。ボムは女の手を離して、女の前に立ちはだかって言った。

「だめだ!これ以上は行かせられねぇ」

 そこで女は初めてニヤリと笑って言った。

「その部屋が女領主の部屋か。案内ありがとよ」

 女は笑顔で右手のこぶしを振り上げた。その直後、ボムの意識は途絶えた。
 



 
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