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身代わり

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 フィンはまったく危機感のないクララに真剣な顔で言った。

「ねぇクララ、聞いて。明日のお勤めには行っちゃダメだ。僕と交代して?」

 クララはしぶっていたが、最終的にはしょうだくしてくれた。クララは明日のお勤めの時刻はお昼の十二時だと告げた。

 その後フィンは何食わぬ顔で先ほどの部屋に戻り、中年女性に礼を言った。三人の娘たちは、美しいドレスを身にまといご満悦だった。

 フィンたちは別な部屋に通された食事をとった。食事はとても豪華なものだった。フィンは側にいるであろう白猫のブランに小さく声をかけた。ブランは小声で、この食事は安全だと教えてくれた。

 フィンは給仕してくれる人たちに怪しまれないように食事を食べた。だが緊張のため、味はよくわからなかった。

 フィンたちは食事の後、フカフカのベッドで眠るようにいわれた。フィンは枕元にいる、姿は見えない契約霊獣のブランを撫でた。ブランは小さな声で言った。フィン、アタシが守ってあげるから安心して休みなさい。フィンはうなずいて目を閉じた。

 翌日フィンはあてがわれた部屋をこっそり抜け出し、クララのいる部屋に向かった。クララを呼び出してもらうと、彼女はとても興奮気味だった。朝に出された食事が、これまでにないほど豪華だったそうだ。

 フィンは何故彼女たち若い娘がこんなに優遇されているのかよくわかった。これから彼女たちは命を奪われる。そのせめてもの心づかいなのだ。美しいドレスに宝石、美味しい食事、穏やかな楽しい時間。フィンはクララに言った。

「クララ。君たちを世話してくれる責任者に会わせてくれない?」

 クララはうなずいてから六十代くらいの優しそうな女性を連れて来た。フィンは女性に言った。

「すみません、ぼ、私早く家に帰らないといけないんです。だから、今日あるお勤め、クララと代われないでしょうか?」

 フィンの言葉に、六十代の女性はギョッとした顔になった。そして、どうか考えをあらためてここの生活を楽しむようにと諭された。だがフィンは引きさがるわけにいかなかった。

「私の母が病気なんです。ここでいただいたお金を渡したけど、母の事が心配で。私がすぐにお勤めをする事に、何が不都合があるんでしょうか?」
 
 フィンは女性の表情を探るように見つめた。女性は言葉に詰まったような顔をしてからため息をついて、フィンとクララが交代する事をしょうだくしてくれた。

 フィンは女性に礼を言ってから、クララを連れて部屋の外に出た。クララにコッソリ耳打ちをする。

「クララ。君と一緒に来た子たちを連れて来てくれる?」

 クララは真剣な顔でうなずいて、自分と同じ歳くらいの娘二人を連れて来た。この娘たちが、バネッサたち依頼人が救出してくれといっていた子たちだ。

 フィンたちはここにいるすべての娘たちを救出する気でいるが、クララたちは安全な所にいてほしいと考えているのだ。

 だがフィンはクララと交代したが、残りの娘二人の身代わりがいない。フィンはクララに質問した。

「クララ、この屋敷内に土のある場所はない?」
「土?中庭ならあるわ」

 フィンたち連れてこられた娘たちは、屋敷の外に出る事は許されない。だが屋敷内ならどこに行ってもいいのだ。クララたちはフィンを屋敷の中庭に案内した。

 そこは、色とりどりのバラや花が咲き乱れる美しい中庭だった。クララたちは食後に散策をするのだという。きっと、外に出られない娘たちの心を慰めるための中庭なのだろう。

 中庭には、花を育てるために土が豊富にあった。フィンは姿隠しの魔法で隠れている契約霊獣のブランに声をかけた。

「ブランお願い。この女の子たちを土人形で作って?」
『ええ』

 姿の見えないブランの声が聞こえたかと思うと、フィンの足元の土がムクムクと盛り上がり、人型が二体できた。

 クララたちは突然現れた土人形にキャァッと叫び声をあげた。

 ブランが作ってくれた土人形は、当然のごとく茶色だ。フィンたちは、この屋敷について最初に入った部屋に行った。沢山のドレスやアクセサリーのある部屋だ。

 フィンたちは土人形にドレスを着せて、カツラをかぶせ、フリルの沢山ついたヘッドドレスを付けた。そうすると、顔が真っ黒でも顔を下にむけていれば土人形とわからなかった。

 ブランはクララたち三人に姿隠しの魔法をかけた。クララたちはフィンから見えなくなった。

 フィンはクララたちがいると思われる場所に視線を向けて言った。

「いいクララ?三人ともこの部屋の端っこに隠れてて?僕の仲間がこの屋敷の外に待機している。もしこの屋敷で何か起こってもきっと助けるから、ここで待ってて?」

 姿の見えないクララはか細い声で、わかったわと答えた。

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