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バレットのドレス

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 それまで横で静かにバネッサとバレットの話を聞いていたアレックスがバレットに聞いた。

「一体何が危険だって言うんだ?バレット」
「おいアレックス。何で娘が大量に連れて行かれたと思う?」
「そりゃあ。領主が若い娘が好きな変態男だからじゃねぇのか?」

 アレックスはバネッサに気を遣ってか、きまり悪そうに答えた。だがバネッサはすかさず反論した。

「それなないわ。だって領主は女だもの。今の領主は王都で人気の女優だったんですって。前の領主が見そめて妻にしたの。それで前の領主が亡くなってから後を継いで女領主になったのよ。だから娘たちにいかがわしい事なんかしないわよ。町の人たちもその辺は安心して娘を送り出したのよ」

 バネッサの言葉を聞いたアレックスは首をかしげて言った。

「じゃあ、何で若くて美しい娘をそんなに沢山集めるんだ?」
「領主が必要としているのは娘の命だ」

 バレットは断定的に答えた。バネッサはヒュッと息を飲んだ。バネッサもうすうす感じていたのだ。バレットは言葉を続ける。

「バネッサの妹が連れていかれたのも一ヶ月前。そして今回も娘の補充をするためフィンを連れて行っている。おそらくだが、魔物がからんでいるかもしれない。早くしないとクララもフィンも危険だ」
「魔物?!それじゃクララは魔物に殺されちゃうかもしれないの?!」

 バレットの発言に、バネッサは大声を出した。バレットはうるさそうに顔をしかめながら言った。

「まだわかんねぇけどな。おいバネッサ、俺にもドレスを着せろ!俺も領主の屋敷に行く!」
「バカ言うなバレット!フィンならともかくお前がドレスなんか着たら気持ち悪いだろう」
「うっせぇ!領主の屋敷に入ってフィンとクララの安全が守れればいい!」

 どうやらバレットはフィンの事となると他のことは目に入らないらしい。バネッサだってそうだ、妹のクララのためなら何だてする覚悟だ。

 バネッサはバレットにもドレスを着せていく。鎧を脱いだバレットは、想像以上に細身だった。バネッサはバレットの腰にコルセットを巻きつけると、先ほどからの積もり積もった怨みを発散させるためにギュウギュウ締めあげた。

 バレットにはバネッサのブルーのドレスを着せた。ドレスのスソの長さはツンツルテンだが仕方ない。バレットはフィンと違って髪が長いので髪をひとまとめにして髪どめでとめた。

 化粧にとりかかると、これまたバレットも肌が綺麗で憎たらしい。バレットの目元に淡いピンクのシャドーを入れてアイラインを引く。そうすると引しまったバレットの顔が優しげになる。口紅はオレンジベージュ。薄く引き締まったバレットのくちびるがぷっくりとする。

 バレットの化粧を終えたバネッサは驚いてため息をついた。ドレスを着て化粧をしたバレットは、とても美しかった。長身でスタイルが良いので中性的な美人といったところか。

 だがアレックスには不評だったようだ。アレックスは青い顔でバレットに言った。

「やめとけバレット。門兵に殺されるぞ?」
「ハッ!門兵なんか返り討ちにしてやるぜ!」
「バレット、お前何しに行くんだよ?領主の屋敷に行くんだろ?」
「ああ。屋敷の中に入れさえすればいい。アレックスは俺が連絡したら、屋敷の外で待機していてくれ!パンター!」

 バレットはアレックスにそれだけ言うと、何かを呼んだ。すると、バレットの横に巨大な黒ヒョウが突然現れた。バネッサは急に現れた肉食獣に悲鳴をあげてアレックスにしがみついた。アレックスはバネッサに笑って心配ないと言った。

 バレットはドレスのスソをまくって黒ヒョウの背中に乗った。黒ヒョウはバレットが乗ったのを確認すると店の外に出て、驚いた事に空を飛んで行ってしまった。

 バネッサがぼう然と空を見続けていると、アレックスがバネッサの肩をポンと叩いて言った。

「バネッサさん、俺にも領主の屋敷の場所を教えてくれるか?」

 バネッサはハッとしてから、アレックスにつかみかかって言った。

「私も一緒に連れてて!」


 
 
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