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領主の疑惑

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 事態が変わったのは、ある男がグラブの町にやって来た事がきっかけだった。その男は馬車に乗ってやってきた。男の顔は焦燥しきっていて町の人々を怖がらせた。

 男の馬車には沢山の木箱が入っていた。町人たちは興味深げに男の動向を見ていた。男は町の中心にある広場に馬車を停めると、声高らかに叫んだ。

「この町に、領主に娘を売った者がいれば来てくれ!見せたいものがある!」

 町人たちはおかしな男の言う通りに大きな木箱を広場に降ろした。広場に並べられた木箱は十七個あった。

 バネッサは、妹のクララと一緒に領主の屋敷に娘をやった町人に話を聞いて広場に向かった。バネッサが広場に着くと、泣き叫ぶ人たちの声がした。

 泣いている町人たちを見ると、木箱の中を見て泣いているようだった。バネッサはおそるおそる泣いている町人の側に近寄り、自分も木箱の中をのぞいた。

 バネッサは木箱の中身を見て息をのんだ。そこには妹のクララと同じくらいの年齢の娘の死体だった。バネッサは叫び声をあげながら、木箱の中身を確認し始めた。だが広場に広げられた十七個の木箱の中には、妹のクララはいなかった。

 バネッサはホッと息をついてから、おかしな男が乗って来た馬車の中にまだ木箱が三つ入っているのを見た。バネッサは馬車にかけ寄ろうとした。すると、おかしな男がバネッサのゆくてをふさいで言った。

「この子たちはお前らの町の者じゃない!」

 そう言って男は馬車に飛び乗ると、木箱の一つにしがみついて号泣した。見物に来ていた町人がコソリとバネッサに教えてくれた。どうやら男の娘も死んでいたらしい。

 バネッサは身体の力が抜けて、その場にくずおれそうになってしまった。この場に妹のクララの遺体はなったが、このままでは確実にクララも死んでしまう。

 バネッサは娘を領主の屋敷に行かせた者たちと一緒に、どうしたら娘を救出できるかと話し合った。そして王都にある冒険者協会に依頼を出す事にしたのだ。

 グラブの町にも冒険者協会はあるにはある。だがとても規模が小さく、この町には冒険者なんて来る事は少ない。

 冒険者への依頼は、バネッサが代表になって取り仕切った。だが待てど暮らせど冒険者はやって来なかった。

 そしてようやくアレックスたち三人の冒険者がやって来てくれたのだ。バネッサは待ちくたびれて、喜びよりも苦情の方が先に出てしまった。

「もう一ヶ月も前から依頼を出しているのよ?何でもっと早く来てくれなかったの?!」

 バネッサの剣幕に、アレックスはタジタジになっていた。代わりにバレットが顔をしかめながら答えた。

「そんなの仕方ねぇだろ。グラブの町は王都から十日もかかるんだぜ?それに依頼料が少ねぇよ。王都の相場じゃこの依頼料ならどんな冒険者だって依頼を受けたがらねえよ」

 バレットの言葉に、バネッサは不機嫌な顔になりながら言った。

「じゃあ何でアンタたちは来てくれたのよ?」

 その質問にはアレックスが苦笑しながら答えてくれた。

「俺は少し王都から離れなければいけなくてな。それでバネッサさん、俺たちは君の妹さんを領主の屋敷から連れ帰ればいいんだな?」

 バネッサはハッとしてからうなずいて言った。

「ええ。妹のクララと他に二人の女の子たち。そして、今日が領主の手の者が娘を連れて行く日なの」

 バネッサは悔しそうにくちびるを噛みながら言った。この町の人間はどうかしている。馬車でやって来た男が娘の死体を見せてくれたのに、まだ娘を売ろうとする町人が後を立たないのだ。バネッサの言葉に、バレットはアゴに手を当てながら言った。

「そうなると連れていかれる娘の中に誰か内通者を紛れ込ませられるといいんだがな」

 バレットはしばらく考えてから、笑顔でフィンに振り向いて言った。

「よし。ブランを小娘に変身させて紛れ込ませよう!」

 バレットの提案を聞いたフィンは、抱いている白猫をバレットから遠ざけるような仕草をして答えた。

「ダメだよバレット!連れて行かれた女の子は死んでしまうかもしれない危険な場所なんだよ?!大切なブランをそんな所に一人で行かせられないよ!」

 バネッサはバレットとフィンのやりとりを見て首をかしげた。どうやらブランというのは、フィンの抱いている白猫の事らしい。だが何で白猫が十六歳くらいの少女になるのだろうか。バネッサが二人の話を聞いていると、急にフィンがバネッサに言った。

「そうだ!バネッサさん。僕にやらせてください!」

 バネッサはポカンと口を大きく開けた。


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