143 / 298
フィンとブランの追撃
しおりを挟む
サメ男はコウモリの翼を生やし、空高く登っていった。このままでは逃げられてしまう。フィンは自身の契約霊獣のブランに叫んだ。
「ブラン!植物魔法で足場を作って?!」
『ええ!』
霊獣ブランはサメ男の飛んでいる真下の地面から、巨大な植物のツルを何本も生やした。フィンはそのツルの一本に飛びつくとすばやく登り出した。ブランは何本ものツルを地面から出現させるため、サメ男は気流が乱れて上手く飛べないようだ。この瞬間にフィンがサメ男を地面に叩き落とすしかない。
フィンはサメ男が危なげに飛んでいる高さまでツタを登りきると、足場にしているツタを強くけって、サメ男に掴みかかった。サメ男は突然フィンが飛び出してきた事に驚いたようだが、何とか体勢を立て直してフィンをよけた。
肩すかしをくらったフィンは、近場のツタに飛びつくと再びツタを登った。そしてツタを足場にして、狙いをさだめてサメ男に殴りかかった。フィンのこぶしを受けたサメ男は体勢を崩した。フィンのこぶしは地上ではまったく通用しなかったが、サメ男の体勢が不安定な上空では効果があるようだ。
フィンは近場のツタに掴まろうとしたが、ツタの葉を掴みそこね、落下した。だがすかさず地上にいるブランがツタを操ってフィンを受け止める。フィンは地上のブランにありがとうと笑いかけた。
「フィン!」
地上にいるリリーが叫んだ。フィンがリリーを見ると、彼女は弓を引いていた。矢じりの部分にはリリーの火魔法が灯されていた。フィンは理解した。リリーの火魔法で、サメ男の翼を燃やそうというのだ。
フィンはブランに叫んだ。
「ブラン!僕を思いっきりサメ男に投げて!」
するとフィンを掴んだツタは、グルリとたわんでから勢いつけてフィンを投げた。ピョーンと飛んだフィンの目の先には、サメ男が飛んでいた。フィンは渾身のこぶしをサメ男の顔にめり込ませた。
フィンの攻撃を受けたサメ男はグラリと身体をゆらすと、地面に落ちていった。リリーが火魔法の矢を放つ。サメ男は火に包まれながら地面につい落した。
サメ男を殴ったフィンも重力に従って落下し始めた。すかさず近場のツタがフィンを優しく受け止めて地面に降ろしてくれた。
フィンが地面に着地すると、サメ男はフレイヤの拘束火魔法で拘束され、あお向けに倒れていた。フィンはサメ男を見下ろして言った。
「おい、観念して霊獣ハンターの事を話せ」
サメ男は、拘束され敵に囲まれているのにもかかわらず穏やかな声で答えた。
「私は組織のほんの一部にすぎません。私はただ霊獣ハンターになりそうな人間を探して勧誘するだけの存在です」
どうやら霊獣ハンターを束ねる組織はとても巨大なようだ。フィンは質問を変えた。
「ならば霊獣ハンターの組織のトップは何というんだ?」
そこでサメ男はフフと笑ってから答えた。
「霊獣ハンターを組織する者。いえ、霊獣ハンターを束ねる組織はこの世に沢山あります。私たちは氷山の一角にしかすぎません」
サメ男の言葉にフィンはげんなりしてしまい、少し言葉を和らげて言った。
「人間が霊獣を捕らえないようにするにはどうしたらいいのかな?」
「それは無理です。何故なら人間というものは、常に霊獣や精霊に魅了される生き物なのだから」
サメ男は穏やかな笑顔で言い切った。フィンはリリーたちを見回した。リリーたちも困惑ぎみだ。突然サメ男が苦しみ出した。フィンはサメ男に叫んだ。
「どうしたんだ?!」
「今、私の歯の奥につめた毒薬を飲んだのです。私はもうすぐ死にます」
サメ男の言葉を聞いたリリーが自身の契約精霊に叫んだ。
「フレイヤ!回復魔法を!」
フレイヤはサメ男の胸に手を置いてから首を振って言った。
『ダメだわ、強力な即効性の毒みたい。きっともっと前から毒を飲んでいたようね』
フレイヤの言葉にフィンは驚いてしまった。そうなるとサメ男はもっと前から死ぬ覚悟だったという事だ。フィンはサメ男に質問した。
「何故死のうとするの?」
「私はこの上もない幸せ者だからです。美しい精霊と霊獣に見守られながら死ねるのです。もう思い残す事は何もありません」
フィンはハッとした。このサメ男は霊獣や精霊に対してこの上もない執着心を持っていたが、サメ男は本心から霊獣と精霊を愛しているのだとわかった。フィンは穏やかな声で聞いた。
「貴方の名前は?」
「フアト」
フィンは痛ましそうに顔を歪めてから、自身の契約霊獣に言った。
「ブラン、お願い。この人を看取ってあげて?」
ブランはうなずくと小さな前脚をサメ男、フアトの胸にチョコンと乗せて言った。
『フアト、アタシは貴方を許します』
リリーもフレイヤにお願いした。フレイヤはうなずくと、美しい手をフアトの胸に置いて言った。
『フアト、安らかに眠りなさい』
フアトの小さなサメの目から、ツウッと涙がこぼれた。フアトは息も絶え絶えになりながらフィンに言った。
「若き召喚士よ。慈悲深いとむらいを感謝する。私の魔物の力が気になっただろう?私に魔物の力を授けた魔物は、メグリダと言っていた」
その名前にフィンはビクリとした。グッチに力を授けた魔物だ。フィンは奥歯をグッと噛んだ。フアトはそれきり息絶えた。
フアトの絶命と共に魔物の力が消え失せたとみえて、フアトはサメ男の姿から人間に戻った。人間の彼は小柄な老人だった。フィンはブランに頼んでフアトを地中深くに埋葬してもらった。
「ブラン!植物魔法で足場を作って?!」
『ええ!』
霊獣ブランはサメ男の飛んでいる真下の地面から、巨大な植物のツルを何本も生やした。フィンはそのツルの一本に飛びつくとすばやく登り出した。ブランは何本ものツルを地面から出現させるため、サメ男は気流が乱れて上手く飛べないようだ。この瞬間にフィンがサメ男を地面に叩き落とすしかない。
フィンはサメ男が危なげに飛んでいる高さまでツタを登りきると、足場にしているツタを強くけって、サメ男に掴みかかった。サメ男は突然フィンが飛び出してきた事に驚いたようだが、何とか体勢を立て直してフィンをよけた。
肩すかしをくらったフィンは、近場のツタに飛びつくと再びツタを登った。そしてツタを足場にして、狙いをさだめてサメ男に殴りかかった。フィンのこぶしを受けたサメ男は体勢を崩した。フィンのこぶしは地上ではまったく通用しなかったが、サメ男の体勢が不安定な上空では効果があるようだ。
フィンは近場のツタに掴まろうとしたが、ツタの葉を掴みそこね、落下した。だがすかさず地上にいるブランがツタを操ってフィンを受け止める。フィンは地上のブランにありがとうと笑いかけた。
「フィン!」
地上にいるリリーが叫んだ。フィンがリリーを見ると、彼女は弓を引いていた。矢じりの部分にはリリーの火魔法が灯されていた。フィンは理解した。リリーの火魔法で、サメ男の翼を燃やそうというのだ。
フィンはブランに叫んだ。
「ブラン!僕を思いっきりサメ男に投げて!」
するとフィンを掴んだツタは、グルリとたわんでから勢いつけてフィンを投げた。ピョーンと飛んだフィンの目の先には、サメ男が飛んでいた。フィンは渾身のこぶしをサメ男の顔にめり込ませた。
フィンの攻撃を受けたサメ男はグラリと身体をゆらすと、地面に落ちていった。リリーが火魔法の矢を放つ。サメ男は火に包まれながら地面につい落した。
サメ男を殴ったフィンも重力に従って落下し始めた。すかさず近場のツタがフィンを優しく受け止めて地面に降ろしてくれた。
フィンが地面に着地すると、サメ男はフレイヤの拘束火魔法で拘束され、あお向けに倒れていた。フィンはサメ男を見下ろして言った。
「おい、観念して霊獣ハンターの事を話せ」
サメ男は、拘束され敵に囲まれているのにもかかわらず穏やかな声で答えた。
「私は組織のほんの一部にすぎません。私はただ霊獣ハンターになりそうな人間を探して勧誘するだけの存在です」
どうやら霊獣ハンターを束ねる組織はとても巨大なようだ。フィンは質問を変えた。
「ならば霊獣ハンターの組織のトップは何というんだ?」
そこでサメ男はフフと笑ってから答えた。
「霊獣ハンターを組織する者。いえ、霊獣ハンターを束ねる組織はこの世に沢山あります。私たちは氷山の一角にしかすぎません」
サメ男の言葉にフィンはげんなりしてしまい、少し言葉を和らげて言った。
「人間が霊獣を捕らえないようにするにはどうしたらいいのかな?」
「それは無理です。何故なら人間というものは、常に霊獣や精霊に魅了される生き物なのだから」
サメ男は穏やかな笑顔で言い切った。フィンはリリーたちを見回した。リリーたちも困惑ぎみだ。突然サメ男が苦しみ出した。フィンはサメ男に叫んだ。
「どうしたんだ?!」
「今、私の歯の奥につめた毒薬を飲んだのです。私はもうすぐ死にます」
サメ男の言葉を聞いたリリーが自身の契約精霊に叫んだ。
「フレイヤ!回復魔法を!」
フレイヤはサメ男の胸に手を置いてから首を振って言った。
『ダメだわ、強力な即効性の毒みたい。きっともっと前から毒を飲んでいたようね』
フレイヤの言葉にフィンは驚いてしまった。そうなるとサメ男はもっと前から死ぬ覚悟だったという事だ。フィンはサメ男に質問した。
「何故死のうとするの?」
「私はこの上もない幸せ者だからです。美しい精霊と霊獣に見守られながら死ねるのです。もう思い残す事は何もありません」
フィンはハッとした。このサメ男は霊獣や精霊に対してこの上もない執着心を持っていたが、サメ男は本心から霊獣と精霊を愛しているのだとわかった。フィンは穏やかな声で聞いた。
「貴方の名前は?」
「フアト」
フィンは痛ましそうに顔を歪めてから、自身の契約霊獣に言った。
「ブラン、お願い。この人を看取ってあげて?」
ブランはうなずくと小さな前脚をサメ男、フアトの胸にチョコンと乗せて言った。
『フアト、アタシは貴方を許します』
リリーもフレイヤにお願いした。フレイヤはうなずくと、美しい手をフアトの胸に置いて言った。
『フアト、安らかに眠りなさい』
フアトの小さなサメの目から、ツウッと涙がこぼれた。フアトは息も絶え絶えになりながらフィンに言った。
「若き召喚士よ。慈悲深いとむらいを感謝する。私の魔物の力が気になっただろう?私に魔物の力を授けた魔物は、メグリダと言っていた」
その名前にフィンはビクリとした。グッチに力を授けた魔物だ。フィンは奥歯をグッと噛んだ。フアトはそれきり息絶えた。
フアトの絶命と共に魔物の力が消え失せたとみえて、フアトはサメ男の姿から人間に戻った。人間の彼は小柄な老人だった。フィンはブランに頼んでフアトを地中深くに埋葬してもらった。
0
お気に入りに追加
771
あなたにおすすめの小説
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる