上 下
142 / 298

フードの男

しおりを挟む
 フィンの目の前に現れたフードの男は、さもおかしそうに口元に笑みをたたえていた。フィンはそんなフードの男の態度が気に入らず、語気を荒げて言った。

「何がおかしいんだ!お前は一体何者なんだ!?何故召喚士になれなかった者をそそのかして霊獣ハンターにする」

 フィンは話しているうちに腹の底からフツフツの怒りが湧いてきた。このフードの男なのかわからないが、フィンの元クラスメイトのグッチはそそのかされて霊獣ハンターになり、そして魔物になって死んだ。フードの男とかかわりさえしなければ今も生きていたはずだ。

 フィンはフードの男に掴みかかりたい衝動を必死に抑えていた。だがフードの男は、フィンの怒りが面白いのか笑顔で答えた。

「貴方は何故そんなに怒っているのですか?貴方は美しい霊獣と契約できた幸運な人ではないですか」
「お前は何故霊獣を憎むんだ!」
「憎む?おかしな事を言いますね。私はこの世の誰よりも霊獣を、そして精霊を愛しているのです」
「嘘だ!お前にそそのかされた奴は霊獣ハンターになり、霊獣にひどい事をしたんだぞ!?」
「それは考え方の相違です。霊獣ハンターたちは皆霊獣を心から愛し崇拝しているのです。だから、」

 そこでフードの男は言葉を切り、ニヤリと笑った。だがその口はみるみる耳まで裂けた。大きく開いた口の中にはサメのような鋭いキバがびっしりと生えていた。フィンは土鉱物魔法で手甲と足甲を出現させると、右手の拳をフードの男の左頬にめり込ませた。だがフードの男はビクともせず、そのまま立ち尽くしていた。フィンはまるで巨大な岩を叩いたような衝撃を感じた。

 フィンが殴った事により、男のフードが外れて顔があらわになった。だがその顔は人間のものではなかった。顔はつるりと丸くとがっていて、目は小さく横にあった。まるでサメ人間だ。フィンは驚きのあまりヒュッと息を飲んで言った。

「お前は人間なのか?」
「はい、私はれっきとした人間です。貴方の言うところの召喚士のなり損ないですよ。ですが私はある方から大いなる力を授かったのです。この力で私は霊獣たちに真の幸福を与えたいのです」
「霊獣の真の幸福だと?」
「ええ。貴方は学校で勉強したはずですよ?霊獣の真の幸福とは、人間に隷属する事です。人間と契約し、人間に奉仕する事が霊獣の真の幸福なのです。私はその手伝いをしているのです」

 フィンはフードの男、改めサメ男の考え方にぼう然としてしまった。フィンこそサメ男に言いたかった。お前は召喚士養成学校で一体何を教わってきたのかと。

 霊獣と精霊は、召喚を行った召喚士が可愛くてしょうがないのだ。自身と契約した召喚士を守りたくて、幸せにしたくて仕方ないのだ。フィンにはそれが、書物の中だけではなく、霊獣ブランと契約して肌で感じる事ができた。だからサメ男の言い分は全く的外れなのだ。だがサメ男は自分の考えが正しいと信じて疑わないのだ。

 フィンがどうしたらよいか考えあぐねていると、リリーが叫んだ。

「フィン!フードの男から離れて!フレイヤ!捕縛火魔法!」
『ええ。わかったわ』

 フィンの後ろにいたリリーとフレイヤがサメ男の前に出る。フィンは素早くその場から離れた。

 リリーの指示に従い、フレイヤは強力な火魔法を発動した。炎はサメ男の周りを取り囲んだ。炎の輪はサメ男を拘束するかに思えた瞬間、サメ男の背中からコウモリのような翼が生えた。サメ男は上空に飛び上がった。

『逃すか!』

 フレイヤは炎の向きを上に変え、サメ男を追いつめようとした。フレイヤの炎の火の粉が勢いよく周囲に飛び散った。リリーが叫ぶ。

「フレイヤ!火拘束魔法解除!森が火事になっちゃう」

 リリーの言葉にフレイヤは火魔法を解除した。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...