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サクマ

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 サクマはフィンが怖がりもせずに立っている事が不満らしかった。ニヤニヤ顔は崩さないままフィンに言った。

「たいした余裕だなフィン。俺がお前を殴らないとでも思っているのか?言っただろ?俺は貴族さまなんだ。ここで一番偉いんだ」

 フィンはげんなりしながら答えた。

「僕は貴族という人たちは、もっと立派なのかと思っていたよ。自分を律し、他を思いやる人だとね。サクマみたいな出来損ないじゃあ男爵のお父さんも厄介払いしたくなるね」

 フィンの言葉に、先ほどまでニヤニヤ顔だったサクマの顔がひょう変した。顔色が怒りに赤く染まった。サクマは震える低い声で言った。

「テメェ、生きて帰れると思うなよ?そういやお前の先輩のザラは殴られた時泣いて助けてと言っていたな。実に情けないヤツだ」

 フィンはピクリとこめかみが動くのがわかった。フィンは低い声で言った。

「サクマ、君はザラに暴力を振るったのか?」
「ああ、ここに入りたての時は毎日のように殴ってやったぜ。だがザラは館長に気に入られて手が出せなくなっちまったがな。だから今日からお前が俺のうさ晴らしのオモチャだ」

 フィンは頭のてっぺんがカアっと熱くなるのがわかった。これは怒りだ。フィンはサクマに対して激しく怒っていた。フィンはゆっくりと息を吸って、はいた。怒りを鎮めなければいけない。フィンの目的はサクマからフードの男の情報を聞き出す事だ。

「いいだろうサクマ。僕は君に攻撃はしない、よけるだけだ。だが僕が一度も君に殴られなければ僕の質問に答えてくれるかい?」

 サクマはニヤリと気味の悪い笑顔を浮かべながら叫んだ。

「そんな事願い下げだ!」

 サクマはそのままの勢いでフィンに殴りかかった。フィンはサクマの拳を軽々とよけた。サクマは怒りに顔を歪めながら何度もフィンに殴りかかる。サクマの拳はとてもゆっくりで、しかもわきががら空きだ。サクマは暴力的な人間だが、武術の心得があるわけではないようだ。

 サクマは一度もフィンを殴る事ができない事にいらだち、フィンをはがいじめにしようと襲いかかってきた。フィンはそれを待っていたのだ。同時にフィンもサクマに向かって走った。そしてサクマの足元に走り込むと身体を小さくかがめた。

 するとサクマはフィンの身体に足を取られて顔面から地面に倒れこんだ。フィンは立ち上がってうつ伏せに倒れているサクマに言った。

「さぁサクマ。僕は一度も君に殴られないで、そして君を殴らずに倒したよ?僕の質問に答えてくれる?」

 だがフィンの問いにサクマは答えなかった。フィンがかがみ込んでサクマの状態を確認すると、サクマは気絶していた。どうやら顔面を強く打ちすぎたようだ。フィンはため息をついてからサクマを担ぎ上げた。

 フィンは気絶して起きないサクマを医務室に担ぎ込んだ。医務室にいた医師にサクマが起きたら知らせてほしいと一言伝えてから、フィンは午後の業務に戻った。

 フィンが本の仕分けをやっと終えた頃、ザラが帰ってきた。ザラはフィンの仕事ぶりを見てからお疲れさまと言ってくれた。帰り支度をしている時に、医務室の医師がフィンを呼びに来た。サクマが目を覚ましたらしい。フィンはザラへのあいさつもそこそこにサクマを追って図書館を後にした。

 フィンはサクマに気づかれないように彼の尾行を開始した。サクマはヨロヨロと歩いていたが、顔を打ったケガは問題なさそうだった。

 フィンは街の店々を歩いて行くサクマを見失わないように後をつけた。そこで、フィンはハッと息を飲んだ。そこにはサクマに近づくフードの男がいたのだ。フィンの読みは当たっていた。フィンは素早く呪文を詠唱した。フィンの足元に契約霊獣である白猫のブランが現れた。ブランは美しい瞳でフィンを見上げて言った。

『どうしたのさ。フィン』
「ブラン!現れたよ。フードの男だ!」

 ブランはハッとした顔になり、すぐさま巨大化した。フィンがブランの背中に乗ると、ブランは店の屋根に飛び乗った。

 
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