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 翌日もフィンは人外語図書館に出勤した。教育係のザラはすでに出勤していて、フィンを迎えてくれた。朝の仕事は返却された本を図書館の棚に戻す仕事だ。

 フィンはうずたかくつまれた本を見上げて驚いた。ザラはこともなげに、重いけど大切な本だから取り扱いに注意してと言った。フィンは分厚い書物を本来の場所まで戻していった。

 その時ある事件が起こった。静かな図書室内に大声が響きわたったのだ。

「俺に指図するな!俺は貴族なのだぞ!」

 フィンは驚いて声のした方に視線を向けた。すると二十代くらいの男が、五十代くらいの男に大声でどなっていた。フィンの側に立ったザラが言った。

「ああ、またサクマの奴だ。嫌な奴なんだ」

 ザラの話では、サクマも召喚士になれなかった男なのだそうだ。サクマの父親は男爵で、小さな頃からワガママに育ったらしい。しかし男爵の爵位は兄が継ぐため、サクマは厄介払いのため召喚士養成学校に入学させられたそうだ。だが勿論召喚士にはなれず、この人外語図書館で司書として働いているのだそうだ。フィンはザラに疑問に思った事を聞いた。

「サクマという人は昨日の司書の人たちの中にいなかったね?」

 フィンは昨日、図書館の司書たちにあいさつをした。だがその中にサクマはいなかったのだ。ザラは苦いものを口にしたような顔をして答えた。

「サクマはここで好き放題なんだ。休みたい時は勝手に休んで、出勤したい時は出勤するんだ」

 ザラはサクマにかかわらない方がいいと言った。だがフィンはジッとサクマを見ていた。サクマがフィンの探している相手かもしれないと思ったからだ。サクマは明らかに現在の状況を不満に思っているはずだ。そんな彼がフードの男に声をかけられたらどうするだろう。

 サクマは先輩の司書に手に持っていた本を投げつけようとした。それを見たザラは突然走り出した。ザラはサクマの右腕にしがみついて叫んだ。

「やめろサクマ!この本はとても貴重な物なんだぞ?!」

 だが痩せ型のザラと、ガッチリとした体格のサクマとでは、大人と子供の争いだ。ザラはサクマの腕に掴まったまま振り回されてしまった。これはまずい、フィンは長身のサクマに走り寄ると、彼の手を掴んだ。サクマは突然自分の腕の自由がきかなくなった事に驚いたのか、不思議そうに右腕を見た。

 フィンは振り向いて自分をにらんだサクマをにらみ返して言った。

「本から手を離してください。先輩」

 サクマは、フィンが小柄なのを見て、自分の相手ではないと思ったのだろう。フフンとフィンを鼻でわらってから、フィンと掴まっているザラ事本を投げようとした。だがサクマは右腕を動かす事ができなかった。

 フィンは小さい頃から自分よりも重い小麦粉を持ち上げていた。そして、剣と武闘の修行をしたのだ。ただ大柄なだけのサクマの動きを止める事などぞうさもなかった。サクマは自分の腕がビクともしない事に怒り、叫んだ。

「何だテメェは!」
「僕は昨日からここで働かせてもらっています。フィンといいます」
「なら先輩には従え!手を離せ!」
「いいえ離しません。司書は大切な書物を守る事が仕事です。貴方の行為は仕事に反しています」

 サクマはドス黒い目でフィンをにらんだが、フンッと鼻を鳴らして右手に持った本を手放した。すかさずザラがキャッチする。サクマはそのまま図書室を後に行ってしまった。

 ザラは本を腕に抱きしめながらフィンを見上げて言った。

「フィンありがとう」

 ザラは心からこの図書館の本を大切にしているようだった。ザラの側に五十代くらいの司書がやってきて、ザラを抱き起こした。五十代の司書もフィンに感謝をのべてから、困った顔になって言った。

「しかし困ったなぁ。今度はフィンがサクマに目をつけられるぞ」

 フィンは言われた意味がわからず首をかしげた。すると司書が説明してくれた。サクマは新人司書がやってくると、決まって嫌がらせをするのだという。ザラも新人の頃は手ひどい嫌がらせを受けたのだという。

 サクマは新しい司書がやってくると目の敵にして嫌がらせをするのだそうだ。フィンは何故サクマが罰も受けずにいられるのかと疑問に思って聞くと、サクマの父親である男爵が人外語図書館に多額の寄付をしてくれているからだという。そのかわり、サクマが悪さをしないように見はっていてくれというのだろう。

 ザラと五十代の司書はしきらにフィンがサクマに嫌がらせをされるのではないかと心配していたが、フィンは好都合だと思った。サクマに近づけば、フードの男に近づけるかもしれないからだ。
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