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ブランとネロー
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ブランは自身の契約者のフィンが眠ったのを確認すると、静かに寝室を出た。ブランはジェシカの家から外に出ると、そこにはジェシカの契約精霊ネローがいた。彼は人間の形をとっていた。
ブランは一回転して自身も人型をとってネローのとなりに立った。ネローは穏やかな声でブランに話しかけた。
「やぁブラン。いい月夜だよ?フィンはもう寝たのかい?」
「ええ。司書の仕事がそうとうこたえたみたい」
「フィンみたいな純真な人間が嘘をつくのは辛い事だ」
「そうね。でもフィンは一度やると決めたら必ずやりとげるわ」
ネローは黙ってうなずいた。ブランは、自分は霊獣でネローは精霊なのに、人間に姿を変えて人間の言葉を話している。ブランにはそれがこっけいに思えた。
ブランはネローに習って満月を見上げた。綺麗。ブランは思わずつぶやいた。ネローが静かに言った。
「ブランは私に何か聞きたいんじゃないのかい?」
ブランはハッとして、満月からネローに視線を移した。そして悲しそうにうつむいて答えた。
「ネローとジェシカがうらやましいんだわよ」
「ブランはフィンに恋してるんだね?」
ブランはこくりとうなずいた。ネローは言葉を続ける。
「私とジェシカの事を聞きたいんだね?」
「ええ。アタシはネローとジェシカみたいになりたいんだわよ。フィンはアタシの事をとても大切にしてくれる。だけど恋愛感情じゃない。もしフィンが人間の女の人を好きになって結婚したら、アタシはこれまで通りフィンの契約霊獣でいられるかわからない」
ネローはうなずいてから言った。
「私は初めてジェシカに会った時から彼女に恋をした。だが言葉に出した事はなかった。ジェシカは人間の男と恋をする事も、結婚する事もなかった。私はとても幸せだ。だがジェシカが幸せなのかどうか、私にはわからない。私は彼女の幸せを願う事しかできない」
ネローの言葉にブランは驚いた。ブランはネローとジェシカが愛の言葉を交わし合って共にいるものだと思っていた。だがそれは違うようだ。しかしブランから見たネローとジェシカは、お互いに信頼し合い、愛し合っているように見えた。ネローがブランに質問した。
「ブラン。ジェシカは幾つくらいの年齢に見える?」
ブランは少し考えてから答えた。
「フィンが、女性の年齢をせんさくするのはいけない事だと言ってたけど。ジェシカは三、四十代ってトコかしら?」
ネローは微笑んでから答えた。
「ジェシカは今年で九十二歳だ」
ネローの答えにブランは驚きの声をあげた。そして気づいた。精霊や霊獣と人間が契約関係を結ぶと、人間の成長がゆるやかになるのだ。ブランは話には聞いた事があったがこれほどまでとは思わなかった。そうなるとジェシカは、霊獣保護団体のゴルよりも歳上という事になる。
ブランが黙っていると、ネローは話を続けた。視線は夜空の満月を見上げていた。
「人間が我々と契約すると、他の人間よりも時間の流れがゆっくりになる。つまり共に暮らしていた家族や友人は早くに年老いて亡くなるが、我々と契約した人間は彼らを見送らなければならなくなる。女性の召喚士は、結婚して子供が生まれると、精霊と契約解除をしてしまう事がある。何故なら自身の子供と同じ時を過ごしたいと思うからだ」
ブランはネローの言葉をジッと聞いていた。ネローがブランを傷つけないように、いたわりながら話を続けている。
つまりフィンが人間の女性と結婚する場合、同じ召喚士の女性が望ましいのだ。ブランの脳裏に一人の少女の顔が思い浮かぶ。リリー。召喚士の美しく優しい少女。そして何より、フィンの事を心から愛している。ブランはギュッと目をつむった。
この事を考えると、ブランは胸が苦しくなる。何故ならブランは、リリーの事もとても大好きだからだ。彼女の事が好きで、そして幸せになってほしいと願ってもいるのだ。ブランはもしかすると、将来辛い決断をしなければならないのかもしれない。
ブランが黙っていると、ネローがブランの肩を優しく叩いて言った。
「さぁブラン。部屋に帰ろう。身体が冷えてしまう」
ブランはうなずいてネローと共に屋内に入った。ブランは一回転して白猫の姿に戻ると、愛しいフィンのマクラ元で丸くなった。フィンは幸せそうな寝顔をしている。
ブランは先ほどのネローの言葉を思い出していた。ネローの愛情は、与えるだけで見返りは求めないものなのだ。ブランもその通りにしなければと思うのだが、ブランの愛情をフィンに汲み取ってもらえず、フィンが他の女性に恋をしてしまったらと考えると、ブランは胸がズキズキと痛んだ。
ブランは一回転して自身も人型をとってネローのとなりに立った。ネローは穏やかな声でブランに話しかけた。
「やぁブラン。いい月夜だよ?フィンはもう寝たのかい?」
「ええ。司書の仕事がそうとうこたえたみたい」
「フィンみたいな純真な人間が嘘をつくのは辛い事だ」
「そうね。でもフィンは一度やると決めたら必ずやりとげるわ」
ネローは黙ってうなずいた。ブランは、自分は霊獣でネローは精霊なのに、人間に姿を変えて人間の言葉を話している。ブランにはそれがこっけいに思えた。
ブランはネローに習って満月を見上げた。綺麗。ブランは思わずつぶやいた。ネローが静かに言った。
「ブランは私に何か聞きたいんじゃないのかい?」
ブランはハッとして、満月からネローに視線を移した。そして悲しそうにうつむいて答えた。
「ネローとジェシカがうらやましいんだわよ」
「ブランはフィンに恋してるんだね?」
ブランはこくりとうなずいた。ネローは言葉を続ける。
「私とジェシカの事を聞きたいんだね?」
「ええ。アタシはネローとジェシカみたいになりたいんだわよ。フィンはアタシの事をとても大切にしてくれる。だけど恋愛感情じゃない。もしフィンが人間の女の人を好きになって結婚したら、アタシはこれまで通りフィンの契約霊獣でいられるかわからない」
ネローはうなずいてから言った。
「私は初めてジェシカに会った時から彼女に恋をした。だが言葉に出した事はなかった。ジェシカは人間の男と恋をする事も、結婚する事もなかった。私はとても幸せだ。だがジェシカが幸せなのかどうか、私にはわからない。私は彼女の幸せを願う事しかできない」
ネローの言葉にブランは驚いた。ブランはネローとジェシカが愛の言葉を交わし合って共にいるものだと思っていた。だがそれは違うようだ。しかしブランから見たネローとジェシカは、お互いに信頼し合い、愛し合っているように見えた。ネローがブランに質問した。
「ブラン。ジェシカは幾つくらいの年齢に見える?」
ブランは少し考えてから答えた。
「フィンが、女性の年齢をせんさくするのはいけない事だと言ってたけど。ジェシカは三、四十代ってトコかしら?」
ネローは微笑んでから答えた。
「ジェシカは今年で九十二歳だ」
ネローの答えにブランは驚きの声をあげた。そして気づいた。精霊や霊獣と人間が契約関係を結ぶと、人間の成長がゆるやかになるのだ。ブランは話には聞いた事があったがこれほどまでとは思わなかった。そうなるとジェシカは、霊獣保護団体のゴルよりも歳上という事になる。
ブランが黙っていると、ネローは話を続けた。視線は夜空の満月を見上げていた。
「人間が我々と契約すると、他の人間よりも時間の流れがゆっくりになる。つまり共に暮らしていた家族や友人は早くに年老いて亡くなるが、我々と契約した人間は彼らを見送らなければならなくなる。女性の召喚士は、結婚して子供が生まれると、精霊と契約解除をしてしまう事がある。何故なら自身の子供と同じ時を過ごしたいと思うからだ」
ブランはネローの言葉をジッと聞いていた。ネローがブランを傷つけないように、いたわりながら話を続けている。
つまりフィンが人間の女性と結婚する場合、同じ召喚士の女性が望ましいのだ。ブランの脳裏に一人の少女の顔が思い浮かぶ。リリー。召喚士の美しく優しい少女。そして何より、フィンの事を心から愛している。ブランはギュッと目をつむった。
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