ひよっこ召喚師モフモフの霊獣に溺愛される

アレックスの怒り

　アレックスは怒りに熱くなる気持ちを落ち着けるため、ゆっくりと息を吐き出した。そして、動きを止めて動かないバルディたちと国王軍を交互に睨みながら大声で言った。

「俺は農民だからさ。貴族や騎士のあんたたちの気持ちなんか全然わかんねぇよ！あんたたちは学があって俺よりも頭がいいんだろ？何で二言目には殺す殺すって、何で腹を割って話あわねぇんだよ！俺たち農民だって気に入らねぇ奴だっているし、困った事だって起こる。だけどその度に皆で話し合うんだ、どうしたら皆が納得できるかって」

　アレックスは一息ついてから周りを見渡して、また話し出した。

「あんたたちだって家族や友達がいるだろ？人間ってのはな一人じゃ生きられないんだ。あんたたちがメンツばかり気にして斬り殺した相手の家族はとても悲しむんだよ！そしてあんたたちが死んでも同じだ。俺は内戦で大切な人たちを何人も失った。だから、これだけははっきりと言える。この世の中にはなぁ、簡単に奪っていい命なんて一つもねぇんだよ！」

　アレックスはハァハァと乱れた息を戻そうした。自分の大切な両親が、村が、このような奴らのせいで殺されたかと思うと、やりきれなかった。アレックスの肩の上のドロップが耳打ちをする、国王軍の動きを止める魔法が解除されると。アレックスはゴクリとツバを飲み込んでから、動けないでいる国王軍に向き直って言った。

「もうすぐあんたたちは自由に動けるようになる。俺はもう何もしない。あんたたちの意思に任せる」

　アレックスの言葉を聞いて、動けないでいるバルディたちは驚いただろう。もし国王軍がバルディたちを殺そうと思ったら、赤子の手をひねるよりもたやすくできてしまうのだから。

　アレックスはゆっくりと息を吐いた、自分も手を出さないと決めたからだ。アレックスは肩に乗っている頼もしい相棒に声をかけた。

「なぁドロップ？ちょっとの間俺から離れてくれないか？」

　ドロップはつぶらな瞳でアレックスを見つめて答えた。

『なんでだ？オラはアレックスと離れたくないぞ』

　アレックスは微笑んでドロップを肩から下ろし、腕に抱きしめた。もし国王軍がアレックスを攻撃しても、ドロップだけはこの手で守ろうと思った。アレックスは目を閉じた。

　だがいつまで経ってもアレックスに刃は襲いかかってこなかった。アレックスがおそるおそる目を開けると、そこには膝をついて低頭した国王軍がいた。一番先頭の、兵団長と思われる男が口を開いた。

「アレックスどの、感服いたしました。我ら国王軍第十八兵団はアレックスどのの意志に従います」

　アレックスはほうっと息を吐いてから、すぐさま兵団長の側に駆け寄って言った。

「膝をつかないでください団長さん。皆もどうか立ってください。俺の意見を尊重してくれてありがとうござます」

　兵団長が立ち上がると共に、部下たちもゆっくりと立ち上がった。兵団長はアレックスが固まって動かないバルディに視線を向けて話し出した。

「我らもこの討伐には反対だったのです。バルディどのは国王陛下と共に戦った盟友、バルディどのが国王陛下に進言しようとしても、国王陛下は決してお会いにならなかった。それどころか、盟友のバルディどのを討伐しろと我らに命令したのです」

　兵団長の言葉にアレックスは驚いてしまった。バルディは、アレックスの目にはただのワガママなおじさんに見えるが、兵士たちからは歴戦の英雄と見られているようだ。兵団長はアレックスの手を取って涙ながらに、止めてくれてありがとうと言っていた。

　嫌ならやめてしまえばいいのにと農民のアレックスには思ってしまうのだが、国王に忠誠を誓う貴族たちには王命とはあらがいがたいもののようだ。

　兵団長は、バルディたちをこのまま見逃してくれると言っていた。おそらく彼らは国王から罰を受けるだろう。

　アレックスは兵団長たちとも、バルディたちとも別れる事にした。アレックスはバルディたちに、もう騒動を起こさないようクギをさしたが、バルディはちっともこりていないようで、アレックスは大きなため息をついた。