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アレックスの受難

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 アレックスはとてつもない窮地にたたされていた。アレックスの契約霊獣コツメカワウソのドロップは、彼の肩に乗って楽しそうにおしゃべりをしている。

『なぁなぁアレックス。何で森の中に隠れてるんだ?あ、ひょっとしてかくれんぼしてるのか?オラかくれんぼ得意だぞ!』
「そうか。ドロップはすごいなぁ」

 アレックスは無邪気なドロップに微笑みかけた。アレックスは可愛いドロップに頬ずりして心ゆくまでモフモフしたい衝動にかられたが、それは現実逃避に他ならなかった。ドロップはアレックスに話し続ける。

『なぁアレックス。鬼は大勢の鎧着た奴らの事か?』
「・・・。ああそうだな」
『そうか!じゃあ奴らに見つからないように隠れなきゃな!』
「そうだなドロップ。静かに隠れていような」
『おお、任せとけ!』

 アレックスは頬がひきつりそうになるのを必死にこらえた。

 事の発端は、バルディからきた連絡だった。バルディは以前アレックスたちが受けた依頼の依頼主だった。何故かアレックスは元騎士団長のバルディに気に入られてしまい、無理矢理バルディの通信魔法具を押し付けられてしまったのだ。

 アレックスの友人であるバレットは、バルディの事を毛嫌いして、決してかかわるなと強く言われていたのだ。だがある日バルディの通信魔法具に応答すると、バルディに助けに来てほしいとこん願された。その声色にじん常ではないものを感じたアレックスはしぶしぶしょうだくしてしまった。

 アレックスの契約霊獣のドロップにお願いすると、コツメカワウソのドロップはむくむくと大きくなり、馬ほどの大きさになってアレックスを乗せてくれた。ドロップは風のように速く走り、あっという間にバルディたちの潜伏している王都から離れた森に到着した。道すがら、怒気をはらんだ国王軍の一団が森の中を進んでいた。

 アレックスは大きなため息をついた。どうやらバルディとその部下の元騎士たちは、国王軍にケンカをふっかけて追われている身のようだ。アレックスはやっとの事でバルディたちを見つけると、彼らは傷だらけで森の奥に潜んでいた。

 「おおアレックス!待ちかねたぞ」

 バルディは傷だらけだったが比較的元気そうだった。バルディは偉そうな態度でアレックスに言った。

「アレックス。お前は治癒魔法が使えると言っていたな?早く部下たちを治療してくれ」

 アレックスはすぐさまドロップと手分けしてケガ人の治療を開始した。アレックスは最初にケガの状態がひどい男に近づき、水治癒魔法を発動した。

 男は腹部にひどい傷があった。剣による刺し傷だ。男の身体はアレックスの作った水の膜におおわれた。男の傷口が輝きだす、少しずつ傷口がふさがっていった。

 アレックスはフウッとため息をついた。男の刺し傷は何とかふさがった。男は弱々しい声でアレックスに礼を言った。アレックスは軽い声で気にするなと声をかけた。

 アレックスと霊獣のドロップは、元騎士たちのケガを次々と治療していった。そして、アレックスは最後にバルディに声をかけた。

「さぁバルディさん、あんたの番だ」

 バルディのケガは一番軽かった。きっと元騎士たちがバルディの事を必死で守ったのだろう。バルディはアレックスの差し伸べたら手をはたいて答えた。

「私はいい」
「バルディさん、あんたはここにいる奴らのリーダーだ。だからあんたは元気でいなければいけない」

 バルディはグッと息を飲んだ。そしてしぶしぶといった感じでアレックスの前に右手を伸ばした。アレックスはバルディの右手に触れると、水治癒魔法で彼の傷を癒した。バルディはアレックスの治癒魔法を見て、感心したように言った。

「アレックス、お主は優秀なヒーラーだな。私は何度も戦場に出ているが、お主ほどのヒーラーは初めて見る」

 バルディはまるで子供のようにアレックスに笑顔を見せていた。無邪気なバルディにアレックスは苦笑した。バルディは憎めない男だった。バルディは偉そうでわがままだが、部下を大切している。そして元騎士たちもバルディをしたっているのだ。

 バルディはアレックスの治癒魔法をしきりにほめていた。そこでアレックスは心の中にずっと秘めていた、ある事を思い出した。アレックスに治癒魔法を授けてくれた、アレックスの大切な人の事を。



 

 

 

 
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