上 下
122 / 298

大悪党魔法使いセミル

しおりを挟む
 セミルたちはオーバン伯爵のさらなる攻撃を恐れて街を去る事になった。セミルは街の男たちと協力して、亡くなった人たちを棺にいれた。そして、大きな空間魔法を作り出し、街の人々と亡くなった人たちの棺を通らせた。

 セミルたちは何度かの空間移動を繰り返してレムーリア国の端っこ、荒涼とした土地に新たなランスの町を作る事にしたのだ。

 セミルは土魔法で沢山の大木を作り出し、家を作る事にした。少なくなったランスの人々たちだけで町を再生させるのは大変だったが、何かに打ち込んでいる方が亡くなった人たちの事を考えてないですんでいたのも事実だった。

 セミルは不毛の土地の改善にも着手した。土魔法で土を作物が育つように。人間は食べなければ生きていけない。そして、町の側には、内戦で亡くなった人たちの墓地を作った。セミルは亡くなった両親の墓に誓った。必ず妹のアロワを守り幸せにすると。

 セミルたちの努力で、新たなランスの町が形になってきた頃、レムーリア国の新国王オーバン国王の使者がやって来て言ったのだ。レムーリア国民の責務として税を支払うようにと。ランスの町にかせられた税金はとても高額なものだった。これはオーバン国王が、ランスの町の人々が謀反を考えないように財力を蓄えないようにさせるためだ。

 セミルはこれに大きく怒った。オーバン国王はセミルの大切な家族を奪い、大切な妹を傷つけただけではあき足らず、やっと元の暮らしを取り戻そうとしていたランスの町の人々からさらに奪うというのか。

 セミルはオーバン国王に、そしてオーバン国王に加担して私服を肥やした貴族たちに復讐すると誓った。セミルは貴族の館から金品を奪った。そして、闇のルートを使って綺麗な金にかえ、ランスの町の人々に配った。これで、オーバン国王がランスの町に多額の税をかけても、ランスの町は税金を払う事ができた。

 ランスの町に、しばらくはつかの間の平和がおとずれた。だが次第にランスの町にガラの悪い冒険者がやってくるようになった。大悪党赤髪のセミルを倒すために。セミルには疑問だった。何故セミルがランスの町にいる事がわかったのだろうか。そこで思い至った、セミルは国家魔法使いになるため書類を提出した。そこに出生地はランスの街と記していた、そして両親の名前も。

 オーバン国王はすぐに思い当たったのだろう。王都に近かったランスの街の人々がこつぜんと消え、レムーリア国の端っこに突然ランスの町ができた。それもすべて国家魔法使いセミルの仕業だと。

 セミルは悩んだ。自分がこのままランスの町にいては、町の人々に迷惑がかかる。だがたった一人の妹アロワから離れる事はためらわれた。アロワは少しずつ正気を取り戻してきたが、とても不安定で、セミルが彼女の側を離れると情緒が不安定になってしまうのだ。

 セミルはランスの町に来るガラの悪い冒険者をコテンパンにして追い出した。だが正義感の強い冒険者はなるべく傷つけず帰したかった。そのため町の人々に協力してもらい、食堂や宿屋にセミルを捕らえようとする冒険者が来たら、睡眠薬で眠らせてもらった。そして、セミルが記憶操作の魔法でセミルとランスの町の記憶を消して帰していた。

 だが今回来た冒険者はまだ少年だった。しかも、とても心の綺麗な少年だった。食堂の店主から、睡眠薬を飲ます事に失敗したと連絡が入り、様子を見に行った。少年は召喚士だった。セミルは思った、これはぶが悪いと。少年は白猫の霊獣を連れていた。霊獣の潜在魔力と人間であるセミルの潜在魔力の差はれき然だ。

 だが一つだけセミルに勝機があるとするならば、少年はまだ幼く召喚士の学校を出たてのようだった。そこをつくしかない。熟練した召喚士になると、召喚士と契約霊獣の連携が確立されて魔法使いのセミルにはうつ手がない。だが、まだ未熟な召喚士ならスキがあるのではないか。

 セミルは少年召喚士と霊獣を町から離れた平地に連れて来た。ここなら町への被害はないだろう。少年召喚士と霊獣はすぐさまセミルに向かって走って来た。まずは霊獣が何の魔法を使うのか把握しなくては。セミルは強力な炎魔法をぶつけた。白猫の霊獣は鉱物防御魔法でセミルの攻撃魔法を防いだ。どうやら白猫の霊獣は土魔法を使うようだ。

 だが少年召喚士と霊獣はただただセミルに向かって走ってくる。少年召喚士は防御一辺倒でちっとも攻撃してこなかった。セミルはいぶかりながらも攻撃し続けた。少年召喚士がもう少しでセミルに近づこうとした時、ようやく霊獣が植物攻撃魔法を使った。何本もの巨大なツルがセミルに襲いかかった。セミルは風魔法で身体を浮かせてツルの攻撃から逃れた。セミルは攻撃をよけながらホッと息をはいた。

 やはり自分の読みは正しかった。少年召喚士は上手く霊獣に指示を出す事ができず、やたらセミルに近づこうとしてくる。これならば少年召喚士と霊獣を引き離し、彼らを傷つけずに制圧する事も可能そうだ。

 セミルが油断した途端、ツタの陰から少年召喚士が飛び出して来た。しかもセミルにこぶしをふり上げていた。セミルはすんでの所で、風防御魔法を発動して少年のこぶしから身を守った。少年召喚士は自らの未熟さを熟知して、自身の体術を高めているのだ。これはまずい、セミルは魔法使いとしては優秀な方だが、体術に関してはからっきしだ。

 セミルの間合いに入られたらまずい。セミルは氷攻撃魔法を少年召喚士に放った。少年は軽やかな身のこなしでセミルの攻撃をよけた。少年から距離を取れればセミルにも勝機がある。少年がさらに間合いをつめる、セミルは再度氷攻撃魔法を少年に放った。だが少年はそれを避けようとしなかった。危ない、と思った瞬間。少年は気味の悪いペンダントに触れた。すると強力な風防御魔法が少年を包み、セミルの攻撃魔法を無効化してしまった。

 しまった、これは罠だったのだ。少年召喚士はすぐさまセミルとの距離をつめ、セミルの左脇腹にこぶしを入れた。セミルは派手に横に吹っ飛んだ。セミルは早く立ち上がろうとした。だが呼吸するたびに左脇腹に激痛が走った。少年はどうやらセミルに対して手加減をしてくれたようだが、肋骨が何本か折れているようだ。

 セミルはすぐさま治癒魔法を開始した。これでは少年召喚士と霊獣を傷つけずにしりぞけるなど無理な事だ。ここは一時退却しなければ。セミルがうずくまりながらスキをうかがっていると、目の前に巨大な土の怪物が現れ、今にもセミルに襲いかかってこようとしていた。セミルは思わずつぶやいた。

「ウソだろぉ」

 白猫の霊獣は土魔法で巨大な土人形を操っているのだ。この少年召喚士と霊獣は、お互い未熟だと理解しているからこそ、個々の力を底上げしているのだ。セミルは危機的状に置かれながらも、この二人はいいコンビだと思った。

 だがのんびりはしていられない。霊獣もまさかセミルをその場で殺そうとはするまい。捕まえて騎士団に突き出すと言っていたから、この巨大な土人形で捕獲するつもりだろう。セミルが逃げるタイミングをうかがっていると、信じられない光景を目にした。

 倒れているセミルの目の前に、小さな人物が仁王立ちに立ちはだかったのだ。セミルには後ろ姿だけでこの人物が誰だかわかった。ランスの町のジャムという少年だ。ジャムの母親は長患いで、セミルはよく煎じ薬を持参しては見舞いに行った。そこで息子のジャムに懐かれてしまったのだ。

 巨大な土人形は今にも小さなジャムを踏みつぶしそうだった。セミルは急いでジャムの元に駆け寄ろうとした。早くジャムの側に行って強力な防御魔法を張らなければ。セミルが起き上がって走り出そうとすると、あまりの脇腹の痛みで、地面につんのめってしまった。

 このままでは小さなジャムが死んでしまう。セミルが絶望的な気持ちで前を見ると、驚くべき事が起きた。少年召喚士が、無ぼうにも巨大な土人形のこぶしを受け止めたのだ。セミルはその瞬間をぼう然と見つめていた。

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

処理中です...