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リリーの決意
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リリーは自身の契約精霊のフレイヤと共に城下町へと歩いていた。リリーのケガ自体は大した事がなかったが、ずいぶんと長い間宿でゆっくりしてしまっていたのだ。死ぬかもしれないケガを負ったフィンは、意識が戻るとリリーたちへのあいさつもそこそこに、すぐに血相を変えて宿から出て行ってしまった。リリーはハァッとため息をついた。
リリーは何故自身と元クラスメイトのフィンが宿で意識を取り戻したかについて思い出していた。リリーのもう一人の元クラスメイト、グッチに攻撃されたからだ。グッチはあろう事か魔物と契約し、魔物の力を得てフィンとリリーたちを殺そうとしたのだ。リリーはフレイヤに守られ、土防御魔法を使った事により助かった。
後でブランから聞いた話によると、フィンの指導官だった魔法戦士が契約霊獣と共に助けに来てくれたというのだ。その魔法戦士はめっぽう強くて、魔物になったグッチをあっという間に倒してしまったそうだ。そこでリリーはぶるりと身体を震わせた。グッチが死んだ。リリーは学生時代からグッチが苦手だった。いつもニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべてリリーにつきまとっていたからだ。
だが死んでしまえばいいなんて思っていなかった。しかし、もうグッチはこの世にはいないのだ。グッチが倒されなければおそらくリリーたちは皆殺しにされていただろう。リリーたちが生き残るためには、グッチの死は仕方のない事だった。
リリーは自分の無力を責めた。もしリリーがもっと強かったら、もっと違った結果になっていたかもしれなかった。フレイヤはリリーの安全を第一に考え、拘束魔法具を自らにつけてしまった。フレイヤが安心して戦えるくらいリリーが強くならなければいけないのだ。
だがリリーは非力な女だ。フィンのように巨大な剣を振るう事もできない。リリーは無意識に胸元のペンダントに触れた。リリーの想い人のフィンからもらった大切な物だ。この魔法具の中には霊獣ブランの強力な土魔法が入っている。このペンダントがあれば、リリーも武器を出現させる事が可能だ。リリーは自分にどんな武器が合っているのかばく然と想像した。大剣は重すぎる、だが短刀では相手の間合いに入らなければ意味がない。リリーはううんと眉間にシワをよせてうなった。
リリーにはもう一つ覚悟を決めなければいけない事があった。それはフレイヤに、必要以上にリリーを守らせないようにする事だ。リリーの契約精霊フレイヤは、とにかくリリーを守ろうとする。そのため自身を犠牲にして大ケガをしてしまうのだ。思えばリリーは、フレイヤに常に抱っこやキスをねだっていた。まるで小さな子供が母親に甘えるように。フレイヤはリリーのおねだりを、慈愛のこもった笑顔で嬉しそうに聞いてくれるのだ。
リリーはとなりを歩いているフレイヤに、断腸の思いで宣言した。
「フレイヤ。お願いがあるの」
フレイヤは美しい笑顔でリリーに振り向いて言った。
『なあに?リリー』
「あのね、フレイヤ。もう私の事を甘やかさないで欲しいの!」
リリーの言葉に、それまで笑顔だったフレイヤの顔がこの世の終わりのようながく然としたものになった。
『えっ?もうリリーにハグも抱っこもキスもしちゃだめなの?』
「・・・。それは、して」
リリーの返事にフレイヤは花が咲いたような笑顔になってリリーに抱きついた。そしてリリーの顔中にキスの雨を降らせた。リリーはフレイヤの暖かで優しいキスを受けながら、フレイヤに甘えないようにするのは無理だと悟った。
リリーは何故自身と元クラスメイトのフィンが宿で意識を取り戻したかについて思い出していた。リリーのもう一人の元クラスメイト、グッチに攻撃されたからだ。グッチはあろう事か魔物と契約し、魔物の力を得てフィンとリリーたちを殺そうとしたのだ。リリーはフレイヤに守られ、土防御魔法を使った事により助かった。
後でブランから聞いた話によると、フィンの指導官だった魔法戦士が契約霊獣と共に助けに来てくれたというのだ。その魔法戦士はめっぽう強くて、魔物になったグッチをあっという間に倒してしまったそうだ。そこでリリーはぶるりと身体を震わせた。グッチが死んだ。リリーは学生時代からグッチが苦手だった。いつもニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべてリリーにつきまとっていたからだ。
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リリーは自分の無力を責めた。もしリリーがもっと強かったら、もっと違った結果になっていたかもしれなかった。フレイヤはリリーの安全を第一に考え、拘束魔法具を自らにつけてしまった。フレイヤが安心して戦えるくらいリリーが強くならなければいけないのだ。
だがリリーは非力な女だ。フィンのように巨大な剣を振るう事もできない。リリーは無意識に胸元のペンダントに触れた。リリーの想い人のフィンからもらった大切な物だ。この魔法具の中には霊獣ブランの強力な土魔法が入っている。このペンダントがあれば、リリーも武器を出現させる事が可能だ。リリーは自分にどんな武器が合っているのかばく然と想像した。大剣は重すぎる、だが短刀では相手の間合いに入らなければ意味がない。リリーはううんと眉間にシワをよせてうなった。
リリーにはもう一つ覚悟を決めなければいけない事があった。それはフレイヤに、必要以上にリリーを守らせないようにする事だ。リリーの契約精霊フレイヤは、とにかくリリーを守ろうとする。そのため自身を犠牲にして大ケガをしてしまうのだ。思えばリリーは、フレイヤに常に抱っこやキスをねだっていた。まるで小さな子供が母親に甘えるように。フレイヤはリリーのおねだりを、慈愛のこもった笑顔で嬉しそうに聞いてくれるのだ。
リリーはとなりを歩いているフレイヤに、断腸の思いで宣言した。
「フレイヤ。お願いがあるの」
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「あのね、フレイヤ。もう私の事を甘やかさないで欲しいの!」
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『えっ?もうリリーにハグも抱っこもキスもしちゃだめなの?』
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