上 下
113 / 298

修行3

しおりを挟む
 フィンは武闘の修行を続けていくうちに、少しずつだが身体の使い方がわかってきた。フィンの身体全体が攻撃する武器であり、身を守る盾なのだ。

 フィンはバレットから剣の訓練を受けていた時、とてつもない違和感を絶えず感じていた。フィンが持つ剣は、まるで自分の身体になじんでいないのだ。フィンはその違和感をずっと感じながら修行を続けていた。それは剣の師匠であるバレットと約束したからだ。必ず剣の修行をやり続けると。

 だが何よりバレット自身が、フィンは剣士としては大勢しない事をわかっていたのだ。バレットはフィンが剣士よりも武闘家に向いていると言ってくれた。フィンは今度こそバレットの期待に応えたかった。

 その時フィンはアレックスと一緒に休憩していた。バレットは夕食を作ってくれているのだ。フィンの契約霊獣のブランは木陰で昼寝をしていた。この所、ブランはずっと寝ている。アレックスはフィンの腕にできた傷を見つけて、治癒魔法をしてくれた。フィンはアレックスに礼を言ってから、それまで感じていた事を言った。

「ありがとうアレックス。僕は皆に治癒魔法をしてもらっているけれど、皆治癒魔法が違うんだね?」

 アレックスはフィンの言った事の意味がわからなかったのか、少し首をかしげた。フィンは続けて話し出す。

「ブランの治癒魔法はね、お日さまみたいに暖かいんだ。パンターの治癒魔法は何だがおごそかな感じで、バレットの治癒魔法はこんな傷で騒ぐなって感じなんだ」
「バレットの治癒魔法はザツだからなぁ」

 フィンの言葉にアレックスがぼやく。フィンはクスクス笑ってから言った。

「アレックスの治癒魔法はね、何だかとっても優しいんだ。どう言ったらいいのかわからないんだけど、胸が締めつけられて涙が出そうなんだ」

 アレックスはびっくりした顔をフィンに向けてから、いつもの優しい笑顔で答えた。

「フィンはとても感受性が強いんだなぁ」

 フィンはそこで意を決してアレックスに言った。

「アレックス、この前はごめんなさい。奥さんの事無遠慮に聞いちゃって」

 アレックスはやわらかく微笑んで答えた。

「そんな事ない。フィン、気づかってくれてありがとう。・・・、俺のこの治癒魔法はララァから受け継いだ魔法なんだ。ララァは俺と同じ戦災孤児だった。ララァはとても強力な治癒魔法の使い手だった。だからララァの元には沢山の病人やケガ人がやってきた。元々病弱だったララァは治癒魔法を沢山使うといつも具合が悪くなった。俺はララァにもうあまり治癒魔法を使わないでくれと頼んだ、だがララァは笑ってこう言ったんだ。自分の力は神様から授かったものだから、神様の喜ぶ事をしなければいけないって。結局ララァは病気になり弱って死んだ、俺に治癒魔法だけ残して」
「アレックスの治癒魔法は、ララァさんがアレックスの事を守ってくれているんだね?」
「ああ。ララァから受け継いだ治癒魔法がなけりゃ、俺みたいなハンパな冒険者はすぐに死んじまう」

 フィンはアレックスの悲しそうにゆがむあ顔を見て、やはり後悔の念にかられた。そしてためらいがちに言った。

「アレックス、辛い事話させてごめんなさい」

 フィンの言葉に、アレックスは笑ってかぶりを振って答えた。

「フィン、ララァは死んじゃいない。ララァの心は永遠だ。彼女は俺と共にいる」
 
 アレックスは自身の手を胸に当てながら言った。フィンは呟くように言う。

「バレットも同じ事言ってた」
「バレットが?」
「うん。僕がバレットに最初に会った時、バレットはゾラさんとレオリオとシンシアが死んだ事をとても悲しんで、そして怒っていたんだ。だけど、この間バレットがゾラさんたちの事を話していた時、とても穏やかな顔をしていたんだ」

 フィンの言葉に、アレックスは一瞬驚いた顔をしてから、泣きそうな笑顔で言った。

「フィン、それはお前のおかげだよ?フィンがバレットの家族になってくれたから、だからバレットはゾラさんたちがバレットを心から愛してくれていた事に気づけたんだ」
「・・・、僕はアレックスやバレットみたいな気持ちにはなれない。もし僕の大切な人たちが急に死んでしまったら、僕は頭がおかしくなりそうだ」

 フィンは自分で話していて、恐怖に身体が震えた。フィンは今まで生きてきた中で、沢山の大切な人が増えた。そこにはアレックスもバレットも入っている。その彼らが死んでしまったらと思うと、フィンは我知らずに涙を流していた。フィンは泣きながら同級生のグッチの話をした。アレックスは黙ってフィンの話を聞いてくれた。アレックスはフィンの話を聞き終わると、一つうなずいてから話し出した。

「フィン。俺はグッチという奴の事を知らないからなんとも言えない。だがグッチは自分の意思で道を選べたんだと思う」

 フィンはジッとアレックスの言葉を聞いていた。アレックスは言葉を続ける。

「グッチが召喚士になれなかったのもグッチの責任。グッチが霊獣ハンターになったのも、グッチの選んだ事だ。そして魔物と契約した事もグッチは責任を取らなければいけない。俺は、自分の進む道を、自分で決められる事はいい事だと思う」

 アレックスは、そこでフィンに寂しそうな笑顔を向けて言葉を続けた。

「俺の両親は、内戦に巻き込まれて死んだ。大きな内戦の中では、個人が自分の道を歩む事は許されない。俺の父親はとても優しい人だった、俺と弟をとても可愛がってくれた。だが父親は旧国王軍に連れて行かれて帰ってこなかった。母親は明るい笑顔をたやさない人だった。だが新国王軍が俺たちの村をじゅうりんしに来た時、母親は俺と弟を逃そうとした。俺は母親から離れたくなくてぐずっていた。だが母親は、とても怖い顔をして俺と小さな弟を家から追い出したんだ。結果的に母親の判断が正しかったんだな、俺と弟は今も生きている。だが俺は母親の笑顔を思い出そうとしても、母親の怒った顔しか思い出せないんだ」

 アレックスはそこまで話し終えると、ふと空を見上げた。そして、フィンに視線を戻して言った。

「フィン。お前はグッチの事を可哀想な奴だと思うかもしれない。だが、グッチからしたら余計なお世話だと思うぞ?グッチは自分で決めた道を歩んで、生き抜いて死んだんだ」

 フィンはボロボロと涙を流しながらアレックスの話を聞いていた。アレックスは大きな手でフィンの頭を優しく撫でてくれた。それはフィンが泣き止むまで続いた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...